2019年3月に始まった鋼の旅団 キャンペーン「咆哮する砲弾(キャノンボール)」では、第1回セッションから第8回の最終回まで、キャンペーンメンバーであるJun-Chanさんが脅威の記憶力であらすじを執筆してくれていました。
そんな素晴らしいあらすじに、GMのこれくら!が補足程度に若干加筆して1話から最終回までを公開します。
プロローグ
帝国歴2522年。
混沌の魔将アーケィオン率いる混沌の軍勢はミドンヘイムを陥落させることができず、撤退を開始した。
それに呼応して、ミドンヘイムをはじめとするエンパイア軍の追撃が始まった。
北部の領邦を蹂躙された仇をとるという大義名文のもと、手柄を急ぐ貴族たちは、騎士や正規の兵士を連れ立ってアーケィオン追撃隊を各々の領地から派遣し、その威風を誇りあっていた。
臨時で雇われた兵士や傭兵たちは、貴族たちの手柄合戦の邪魔にならないように、「一刻も早い復興の手助けをする労力のため」と解雇され、野に放たれた。
一時的な小銭は稼いだが、その後の生活の保障などはなにもない。
ミドンヘイムの攻防戦を末端で、命をかけて支えた臨時兵士たちは、ミドンヘイムの南にある町「ショーニング ハーゲン」に流れて、次の仕事探しをしていた。
この町なら、ミドンヘイムから歩いて半日程度の距離なので、また臨時の徴兵などがあれば、すぐに使者がこの町で徴兵を行うはずなのだ。
そのような考えの兵士たちのせいで、本来450人程度の町の人口は倍以上に増えていた。
混沌の嵐後の未曾有の大混乱の中、エンパイアの治安は悪化し、領地拡大を狙う諸侯たちがいつ動き出してもおかしくない状況の中で、ライクランドの統治者であり、エンパイアの皇帝である「カールフランツ大帝」は、各領邦の統治者と教団の代表をアルトドルフに召集して大会議を開いた。
その中で、オストランド、ホックランド、ノードランド、ミドンランドの空白地帯となった町や村をむやみに占拠してはならないという法案を可決させた。
それにより、エンパイア国内が戦乱になることを防ぎつつ、4つ領邦の選帝侯に借りを作ったのだった。
しかし、タラベックランドにおいては事は別で、混沌の嵐で行方不明になった選帝侯「ヘルムート・フォイエルバッハ」の統治がない今、フォイエルバッハ候の苛烈な武力によって押さえ込まれていたタラベックランドの諸侯たちの覇権争いが始まるのは時間の問題だった。
フォイエルバッハ侯は行方不明であり、その安否は未だ確認されていない。
時間を稼ぎ、フォイエルバッハ侯の帰還さえあれば、タラベックランドの一発触発の事態は収まる。
そこで、カールフランツ大帝は、国を挙げて国民も参加できるイベントを行うことで、北方の復興資金とエンパイア国民の関心、タラベックランドの諸侯が飛びつく提案でありながら、不用意には動けない状況をつくる一策を案じたのだった。
その名も「咆哮する砲弾 作戦」である。
ホックランドの中央山系の麓に位置する「エスク」という町は、鉱山で採掘される銅によって混沌の嵐の前は栄えていた。
しかし、現在は「黒き死霊術師」が占拠していると噂され、誰も近寄らない無法地帯となっている。
この「咆哮する大砲の弾 作戦」は「黒き死霊術師」を排除して、町を取り戻した者にエスクの銅の採掘権を譲り渡し、収益の20%をホックランドの選帝侯に上納すればよいというものだ。
この、エスクを不法占拠する死霊術師を倒し、エスクの町を取り戻すのだが、普通に軍隊を差し向けても面白くない。
軍隊は、アーケィオンの追撃や他の各地の混沌勢力の駆逐に使用しなければならないため、なるべく兵士は使いたくないからだ。
そこで、この作戦に名乗りを挙げた貴族家は、私設軍隊(冒険者やゴロツキ、傭兵)のみでエスクを取り戻さねばならず、私設軍に直接渡せる予算は金貨100枚までというルールの下で行われる。
不正を防ぐために、名乗りを挙げた各、貴族家はヴェレナの司祭から『真実の言葉』の呪文で定期的にウソ発見器にかけられる。
また、「エスクの死霊術師」を生け捕りか討ち取った首を持ち帰るのだが、その真偽は、魔法の学府に所属する魔術師たちの使い魔(カラスや蝙蝠など飛べる使い魔)が競技のあいだ中、上空を飛び交い常に競技者たちの動向をモニターして、魔術師に送信する。
さらに、帰り着いた冒険者たちには、モール司祭の「モールの光景」の呪文により確かめられる。
この「咆哮する砲弾 作戦」に参加する貴族家にはオッズがつけられる。
主要都市にある帝国公認でムートランドの選帝侯が管理するチケット売り場では誰でも金貨1枚から賭けに参加できるのだ。
集まった資金の大半は北部の復興に使用され、一部がムートランドの収益となる。
タラベックランドの諸侯たちにとっては、来るべきタラベックランド内の群雄割拠から頭ひとつ抜け出すためには、「エスク」の採掘権は垂涎の代物だ。
多数のタラベックランドの諸侯が参加すると予想される。
こうして、皇帝の一声で「咆哮する砲弾 作戦」は幕を開けた。
各地に、早馬や伝書が飛び交い、瞬く間に「咆哮する砲弾 作戦」の噂は広まったのだった。
開催は1ヵ月後に行われ、ミドンヘイムの隣町「ショーニングハーゲン」からのスタートとなる。
第1話 出会い
ショーニングハーゲンの街に開設されたオッズバーでは、博徒のハーフリング・ポールが働いていた。
カールフランツ大帝のお触れにより開催の決まった「咆哮する大砲の弾 作戦」を受け付けるためだ。
その日も、帝国の東方アバーランドの若き貴族であるエリーゼ・アルダーが訪れ、作戦への参加と冒険者を募る書類を提出してきていた。
エリーゼの持ち込み品であるベルンロッホ・ハードチーズの分け前を貰ったポールは鼻歌混じりにオッズバーを出るが、そこで辻占いの老婆に勝手に占いをされ、占いの代金を要求される。
老婆の巧みな煽りで見物人に包囲されるポールであったが、そこに通りかかったスカルド詩人の人間・ハルフレズの助けで辛うじて包囲を抜け出し、二人はなし崩し的にスラム通りへと逃げ込む。
そこで二人は、別の作戦参加者・ラントシュタイナー男爵と出会う。
ホックランドのポエニ村の領主だった男爵は、混沌の嵐の際に村と村人全員を失っており、失地回復を狙っていた。
男爵に興味を抱いたハルフレズは得意の演説で男爵を助け、スラム街の住人らに「村が襲撃されるとき、一番に逃げ出した」という噂は嘘であるとの演説で成功を収め、男爵の賛同を得ることに成功する。
ショーニングハーゲンの街の市場にもまた、ミドンヘイムから流れてきた者たちが溢れていた。
地図製作者の人間・グレイは、商人の元で念願の地図製作キットを入手した所だった。
彼が地図製作キットと引き換えにしたのは、高価な真珠であった。
混沌の嵐は大地を大いに穢し生活を破壊したが、かき回された因果はたまたま誰かの懐を潤す事もあり、グレイもまさにその一人であった。
一方、同じ市場では、その身を明かす軍の支給品である制服や鉄砲を密かに金へ変える輩もいた。
兵士のドワーフ・エギルと、同じく兵士のドワーフ・レゴラスの二人は、戦後に浮足立つ雇い主である帝国に見切りをつけ、死亡を装い失踪する事にして、支給品を売り払い今後の資金を得ることにしたのだ。
しかし街には、持たざる者もまた溢れていた。
狩人のエルフ・リルエットは村を焼け出され家族も失い、トボトボと街へと入った。
空腹も限界を迎えていたが、混乱による物価の上昇もあり、難民のリルエットを見る周囲の目は冷たかった。
そこに助け舟を出したのは、河川巡視員のエルフ・シルベーヌで、道沿いの屋台で水と食料をリルエットに奢ったシルベーヌは、含みのある視線をリルエットに向けながら、同行を申し出る。
ホーンハンターの人間・マグナスもまた、持たざる者の一人であった。
混沌の嵐により狩場を失ったマグナスは、急場を凌ぐ仕事を求め、街へとやってきたのだ。
そんなマグナスに声をかけたのは、女盗賊グレッチェンだった。
グレッチェンは街慣れしていないマグナスを「いい獲物」だと思い、嘘の仕事の仲介を申し出るが、前金を要求した事でマグナスはその申し出に違和感を感じ仲介を丁重に断った。
下手を打ったと悟ったグレッツェンは足早にその場を離れるが、田舎者マグナスは心細い思いをしてたところに声をかけてくれた礼をしたいと追いかけ、それはやがて追いかけっこになってしまう。
逃げるうら若き女性と、それを追う筋骨隆々な半裸の男性という光景は衆目を集め、最初に屋台にいたリルエットとシルベーヌが、次に市場にいたグレイとエギル、レゴラスが女性を助けようと仲裁に入る事となる。
街中でひと悶着あったものの誤解を解き、同じく仕事を探す身であったグレイ・エギル・レゴラス・リルエット・シルベーヌ・マグナス・グレッツェンの7人は、酒場に入って今後の身の振り方を肴に酒を酌み交わしていた。
酒場では、酔っ払いに絡まれるが、その対応を見ていたアバーランドのエリーゼ男爵が割って入る。
遠方から参加してきた男爵は冒険者の雇い入れに出遅れており、7人に酒やベルンロッホ・ハードチーズを奢り、「気が向いたら自分に声をかけて欲しい」とPCたちに言い去っていった。
見返りの大きい「咆哮する砲弾 作戦」には、既に多くの有力貴族らが名乗りを上げており、フォン=ライコフ選帝侯をはじめ、騒動の渦中にあるタラベックランドの領主達や、アバーランドのやり手の代官・ライトドルフ、勇猛なキスレヴの難民を抱き込んだレントゲン辺境伯、港の荒くれ者をまとめるケフラー男爵などが、本命や対抗となって周囲の注目を集めていた。そんな中で、いわゆる大穴と揶揄される者たちは後れを取り戻すのに必死であったのだ。
翌朝、ポールの勤務するオッズバーには新たな客が顔を見せる。
かつて勇名を馳せた戦士シュルツ辺境伯だ。
受付のポールに対し募集が集まらない不満を声高にぶつけると、肩で風を切りオッズバーを出て行った。
ポールがいわれのないクレームを受けている頃、街の中心の噴水では、みすぼらしい男が演説の用意をしていた。
噴水の水で白昼堂々、髪を洗い古めかしいが高級品であっただろうと思われる衣服に着替えて身なりを整えると、おもむろに木箱の上に乗り、自分は100年前に現皇帝の祖先により排斥されたギュンター家の末裔だと語る。
その男は、トマス・ギュンターと名乗り、自身の血筋の正当性と現皇帝の不甲斐なさを糾弾するために協力してほしいと呼びかけていた。
どの参加者に自身を売り込むか? 町中の冒険者たちの間では、その話題一色となっていた。
酒場の7人は、オッズバーでハルフレズとポールに出会い、この町で出会った参加者たちの情報を交換しあっていた。
そんな中、由緒正しい血筋の正当性を訴えるトマス・ギュンターが、経歴詐称の詐欺罪により、警備兵にしょっ引かれる。
参加者らの提示する情報は確かなのか、正当に報酬を自分たちへと支払いできるものなのか、9人が手分けして情報収集と裏取りを行った結果、シュルツ辺境伯の依頼を受けることに決めるのであった。
第2話 「咆哮する砲弾 作戦(キャノンボール)」スタート
「咆哮する砲弾 作戦(キャノンボール)」の参加貴族とチーム
スタート順 | オッズ | 貴族家名 | 出身 | 主要領地(規模) | チーム名(人数) |
23 | 55.5 | エリーゼ・アルダー男爵 | アヴァーランド | ベルンロッホ(町) | アナーキーズ(6) |
6 | 4.5 | カーミラ・フォン・ザクス侯 | アヴァーランド | レンゲンフェルト(町) | Breakers(6) |
7 | 5.5 | ライトドルフ家(領地代官) | アヴァーランド | シュトライッセン(街) | 自由革命軍(10) |
26 | 76.5 | フリードリッヒ・ヘルバルト男爵 | ウィッセンランド | シュタインガルト(村) | Heiliges Horn |
11 | 22.5 | ゴットホルト・シュルツ辺境伯 | オストマルク | エッセン(村) | cross pile(4) |
10 | 17.5 | コンラート・レントゲン辺境伯 | オストマルク | フォルテンハーフ(村) | タヴァーリシシ(8) |
1 | 1.1 | ヴァルミア・フォン・ライコフ選帝侯 | オストランド | ヴォルフェンブルグ(街) | Bridge to the future(6) |
19 | 42.2 | イマヌエル・クレプス男爵 | スターランド | マルブルグ(村) | 無銘戦士(10) |
17 | 40.0 | アントン・キージンゲル男爵 | スターランド | ブルドルフ(村) | Burning spirit(5) |
4 | 3.6 | ヨーゼフ・フォン・ベーリング侯 | タラベックランド | ベック(町) | sing for kiling(7) |
2 | 2.8 | テオドール・フォン・ヘルダー侯 | タラベックランド | ガルンドルフ(村) | Wind Woods Volcano(5) |
8 | 5.7 | ヴァルデマール・フォン・チューツェン男爵 | タラベックランド | ヘルムスドルフ(町) | Talabec Dragon(5) |
5 | 3.8 | マンフレッド・フォン・シーラッハ侯 | タラベックランド | クリューゲンハイム(街) | sing for makeing(10) |
22 | 45.9 | アルブレヒト・ドン男爵 | タラベックランド | リースク(村) | The Viper(10) |
9 | 12.8 | クルト・ブリュックナー男爵 | タラベックランド | オッシノ(村) | Talabec Tiger(8) |
16 | 36.7 | レブレヒト・フレーベル男爵 | タラベックランド | ランゲンホーフ(村) | Mob’s(9) |
12 | 24.0 | ウルリッヒ・フォン・ビューロウ侯 | タラベックランド | ヴェレボルン(村) | Talabec Bower(5) |
20 | 42.5 | フランツ・リヒター男爵 | タラベックランド | チューリン(村) | Solitary dragon(4) |
3 | 2.9 | エリーゼ・クリーグリッツ=ウルテン侯 | タラベックランド | タラブヘイム(市国) | sing for waiting(8) |
13 | 25.4 | ルドルフ・ケフラー男爵 | ノードランド | ディータースハーフェン(街) | The Brother ship(5) |
14 | 33.3 | ギュンター・フォン・ハーゲンフェルズ男爵 | ノードランド | ハーゲンドルフ(町) | ダンチョネ(5) |
21 | 42.9 | ヘルムート・アデナウアー男爵 | ノードランド | シューテン(村) | マリーンシールズ(5) |
24 | 58.2 | ユストゥス・ヴィッツイッヒ男爵 | ノードランド | ヴィルヘルムスコーグ(村) | 槍船首(10) |
25 | 65.5 | ライネル・ラントシュタイナー男爵 | ホックランド | コエリン(村) | Buckler(10) |
15 | 36.6 | グレゴール・アウエルバッハ男爵 | ホックランド | グリュイデン(村) | 白い死神(3) |
18 | 41.7 | マグリッタ・フォン・ヴィトゲンシュタイン男爵 | ライクランド | ヴィトゲンドルフ(町) | THE Wall(5) |
27 | 96.2 | リーンハルト・ギュンター | ミドンランド | なし | Legitimate blood(4) |
ショーニングハーゲンの町では「咆哮する砲弾 作戦(キャノンボール)」のスタートを明日に控え、お祭り騒ぎの様相を見せていた。
キャノンボールの参加者もほぼ出揃い、出発順やオッズが正式に公表された事で、一獲千金を目指す者たちの視線は更なる熱気を帯びていた。
2週間前にショーニングハーゲンを訪れた冒険者たち、マグナス、エギル、グレッツェン、リルエット、シルベーヌらにオッズバーで働くポールを加えた6人は、雇い主をシュルツ辺境伯に定め、彼の“弾丸”となったことで得た前金を使い、その日も酒を飲んでいたが、そこにシュルツ辺境伯からの使いが訪れ、彼らは突然解雇を突き付けられてしまう。
シュルツ辺境伯が冒険者集めに難航しているとの情報が本国に伝わり、彼の後輩にあたる吸血鬼狩人の一団が駆け付け新たな“弾丸”に名乗り出たのだ。
冒険者たちはオッズバーのポールの情報に頼り、再び雇い主探しを余儀なくされるが、そんな中でマグナスは運命的な出会いを果たす。
その名はヘルバルト男爵、キャノンボール参加者にして、ウィッセンランドにある環状列石(ストーンサークル)を管理する領主である。
環状列石は通称「タールの牙」とも呼ばれ、自然と大地をつかさどる女神『タールとリア』にまつわる地であり、エンパイアの神話にも登場する歴史有る場所だ。
狩猟を生業とするホーンハンターのマグナスにとっては、まさに聖地と言える場所であった。
ヘルバルト男爵もまたマグナスの姿に感嘆し、元々好条件であった報酬をさらにUPする事を約束したことで、冒険者たちはヘルバルト男爵を新たに雇い主に定めた。
一方、ポールは他にも驚くべき情報を仕入れていた。
立候補詐欺で捕まっていたトマス・ギュンターが、とある人物の支援で保釈され出資金も得て、リーンハルト・ギュンターと名を変え参加者貴族に名を連ねていたのだ。
新たに獲得した前金でマグナス・ポール・グレッツェンが武具の新調に向かった一方で、シルベーヌはトマスのパトロンを調査する。
調査の結果、小さな自治国家が乱立する“ボーダープリンス”の領主がパトロンらしいとの噂は入手できたが、その正体までは掴めなかった。
謎のパトロンに一抹の不安を覚えつつも、一行は締切目前だった賭けのためにオッズバーに飛び込む。
雇い主に投資する者、大穴を狙う者、各々が一獲千金の夢を胸にチケットを買うのであった。
その後、一行はグレッチェンの発案で、旅の間の食料を浮かすために狩りに行く。
狩りを得意とするリルエットやマグナスが居たものの狩りは不調に終わり、運悪くオークやゴブリンに襲撃までされてしまう。
敵は多勢ではあったが、エギルの無双やグレッチェンのウルリックの憤怒が炸裂したことに加え、各々が持ち味を発揮して見事オークたちを撃退し旅への手応えを掴むものの、マグナスが手痛い一撃を受け、出発を前に重傷を負ってしまうのだった。
翌日朝、ついに「咆哮する砲弾 作戦(キャノンボール)」の火蓋が切られる。
スタートは4日間に分けられ、1時間に一組ずつの出発となり、優勝候補の選帝侯やタラベックランド諸侯らの倍率1~9番手のチームは1日目、シュルツ辺境伯やレントゲン辺境伯といった伏兵格である10~18番手のチームは二日目、冒険者たちのヘルバルト男爵やエリーゼ男爵・ラントシュタイナー男爵、ギュンターといった大穴格の19番手~27番手が3日目、それ以外の泡沫参加者がまとめて4日目のスタートである。
3日目のスタートまでに、他チームを偵察(といってもスタートを観戦しただけだが)しつつ、マグナスの治療も無事に済ませ、チーム名を“ハイリゲス・ホーン(聖なる角)”と定めた冒険者たちは、意気揚々と出発する。
だが、最初の拠点ともいえる廃村・インメルシュルトまでの道のりは街道とは呼べない荒れた道で進みも遅く、スタート順の関係ですぐに日没を迎えた“聖角”たちは、暗い森の中での野営を余儀なくされる。
野営の場所探しに難航する“聖角”だったが、森の前方に別チームのテントを発見する。
紋章学に秀でたポールの見立てではノードランドの港町の海兵で構成された“ダンチョネ”の一行であり、1日早く出発した彼らがあまり進んでいない事を不審に思いつつ、“聖角”は“ダンチョネ”へと接触する事にする。
“ダンチョネ”のメンバーは“聖角”の面々を快く焚火へと誘い、彼らがオークやゴブリンの集団に襲撃された事、撃退はできたものの一名の重傷者を出した事で休養を取っている事を説明してくれた。
マグナスを治療したエギルが負傷者の容態を見るが、確かにその傷は深いものだった。
思ったよりもこの森が危険と見て取った“聖角”は“ダンチョネ”と合同で野営する事にするのだった。
その夜、見張り二直目のグレッツェン&シルベーヌの時に、異変が起きる。
遠くから獣の雄叫びを聞いたグレッツェンが手直の者を起こし、“ダンチョネ”のメンバーにも異変を伝えたのと、前方から異形の集団が姿を現したのはほぼ同時であった。
テントを背に、焚火を中心にして、“聖角”と“ダンチョネ”は共闘を開始した。
敵はゴールと呼ばれるミュータントで、屈強なベスティゴールや健脚のセンティゴールをはじめとした1ダースもの集団からなり、体制を整える前に恐るべき速さでの接近を許し、その場は途端に乱戦となった。
スリングを構える後衛のポールをセンティゴールの鋭い一撃離脱戦法が抉り、ベスティゴールの剛腕はエギルの厚い装甲をぶち抜く、誰が倒れてもおかしくない激しい戦いとなったが、相手を上回る連携により徐々にゴール達の戦力は削られ戦況は逆転、遂に残った数体を退散させる事に成功した。
“ダンチョネ”のリーダーは自身らを超える損傷を受けながら留まって戦ってくれた“聖角”への感謝を伝え、ゴールの戦利品の全ての譲渡と重傷者の休憩場所としてのテントの提供、そして次の目的地までの同行と荷車による戦利品の運搬を申し出るのであった。
第3話 死神のいる村
ゴールの一団との激しい戦いを終えたPC達“聖角”と“ダンチョネ”の2チームは、負傷者を抱えたまま4日目の朝を迎えた。
そんな彼らの前に、4日目にスタートした泡沫参加者を含む、実に百人近くに及ぶ野営追行者の一団が姿を現す。
レースの注目度に相応しい稼ぎにありつける事を期待し、参加者たちを追ってきたのだ。
また、ショーニングハーゲンの街で共に雇い主を探していたものの、シュルツ辺境伯からの解約後に別行動となったままだった仲間、兵士・レゴラスとスカルド詩人・ハルフレズも、野営追行者たちに同行して“聖角”へと合流を果たした。
既に大きく出遅れており、先を急ぎたいところではあったが、ゴール達から奪った戦利品の売却や負傷の治療など、野営追行者らの力を借りる必要が有った“聖角”の面々は、しばらく出発を遅らせて彼らのサービスを受けることにする。
賭博に興じた博徒・ポールは胴元や仲間たちから掛け金をせしめ、ハルフレズは娼婦のアゲハ嬢と甘いひと時を過ごし、他の面々も今後を見据え不足していた物品を売買するが、そこではレースの舞台となるこの地の情報をも得る事ができた。
やがて野営追行者の一団を残し“聖角”と“ダンチョネ”は先へと向かう。
“ダンチョネ”は負傷者の治療と態勢立て直しのために一旦ミドンヘイムへ寄る事にしたため、廃村・インメルシェルトに到着後、早々に進路を西に逸れ去っていった。
残された“聖角”は道中の戦利品運搬の重要性を痛感。
鍛冶職人でもある兵士・レゴラスは廃村に捨て置かれた荷車の修理を試みることにする。
兵士・エギルがそれに付き合い、その間他の面々は廃村で使える物を漁って時間をつぶす事にした。
そんな折、廃村に突入してきたゴールの一団に襲われるもそれを退け、廃村でもささやかながら収穫を得た“聖角”だったが、散策の過程で彼らは奇妙なものを発見する。
それは破壊された教会の中、地下室への入り口と思われる扉を塞ぐ、巨大な岩だった。
力自慢でもある河川巡視員・シルベーヌやドワーフのエギルはバールを使いテコの原理で岩をどかそうとする中、レゴラスは、荷車に載せてあった”誰かの”両手斧を使ってテコにした。
苦労の末、岩をどかすと、その下には貯蔵庫替わりの地下室が続いており、降りた先にはシグマーの経典を携えた司祭と思しき大人の白骨遺体と、数多くの子供の白骨遺体が横たわっていた。
入口の状況や白骨化した時期から、恐らくは混沌の嵐の際に地下室に避難した住民たちと思われ、ゴール達から身を隠し閉じ籠ったものの、そのまま閉じ込められ餓死したのだ、と“聖角”は理解した。
子供の白骨死体の横に落ちていたハーモニカに無常を感じたハルフレズは、ハーモニカを拾い上げ弔いの曲を演奏するのだった。
地下室には他にも、司祭の武器やいくつかの装飾品が落ちていた。
特に、中に奇妙な生物が閉じ込めらた琥珀のペンダントが目を引いたが、それが何を意味するかは全く分からなかった。
ひとまず地下室の探索を終わった“聖角”は、犠牲者たちを弔う場所を探す事にし、一旦地上に出る事にする。
しかし地上に出たのも束の間、突如として大きな破裂音が響き渡り、先頭を歩いていた盗賊・グレッチェンがどこからか銃で狙撃され腹に銃弾を受けてしまう。
「もうイヤ! なんでわたしがこんな目に」と、血みどろの腹を押さえて不平不満の限りを呟くグレッチェンを地下室に引きずり戻し、作戦を練る。
敵の位置も狙撃手の数も掴めないため、無防備に外へ出て一方的に狙われるという状況は避けざるを得なかった。
シルベーヌは夜を待ち敵の目を奪っての反撃を提案するが、狙撃手を取り逃がすリスクを考慮しこの場で仕留める必要があると判断したレゴラスとエギルは、自身らが囮と斥候を兼ねて飛び出すと申し出る。
インメルシュルト西側に立つサイロ2棟。
廃村内の数少ない、狙撃に向いた高所に向けて、2人のドワーフが飛び出した。
頑健さと装甲を頼みに全力疾走した事が功を奏し、銃弾はことごとく外れ、レゴラスとエギルはサイロ内部に到達した。
エギルは帽子に白い羽根をつけた「ホワイトフェザー」と異名をとる”カルロス”と対峙、レゴラスは精悍で「エレングラードの英雄」と異名をとる”ヴァシリ”と対峙し、苦戦の末、エギルとレゴラスのそれぞれが狙撃手たちを接近戦に持ち込む事に成功する。
彼らが突破した事で他の“聖角”も動いた。
ポールは狙撃に身を晒す危険も顧みず、サイロの下から接近戦に入ったレゴラス・エギルをスリングで援護する。
このとき、第3の弾道がポールを狙撃し、狙撃手が3人いることが発覚する。
3人目の狙撃手に気付いたシルベーヌ・グレッツェン・ハルフレズは2階建ての民家の窓に陣取る影を発見し、民家の階段を駆け上がる。
そこには、白い仮面とマントに身を包む「白い死神」と異名をとる”シモ・ヘイヘ”と交戦する。
――白い死神。
リーダーであるシモ・ヘイヘの異名がそのままチーム名になっている。
彼らはキャノンボールレースの参加者ではあるが、レースの舞台となるホックランドの選帝侯が、エスクを手放さないために必勝を期して雇い入れ、参加者のアウエルバッハ男爵に託した精鋭集団と噂されていた。
参加者として間違いなく格上である“白い死神”に“聖角”は接近戦に持ち込んでなお苦戦を強いられていたが、やがて戦いの天秤は人数で勝る“聖角”へと傾く。
ポールとエギルの連携で白い羽根は大地に墜ち血の赤に染まる、3人を相手取ってなお翻弄して見せたシモ・ヘイヘもまた、腹に受けた銃弾の恨みをはらす憤怒のグレッツェン達に切り刻まれて2階の窓から叩き落された。
ヴァシリはレゴラスに接近戦では適わないと判断し、目の前のレゴラスの攻撃を掻い潜りながら一人でも道連れにする気迫でサイロ下のターゲットに矢を放ち続け、ポールを死の間際に追い込むが、最後の一閃で体を両断された。
無名の“聖角”が有力チームの“白い死神”を返り討ちにしたというニュースは、廃村の上空を飛ぶ使い魔たちの手によって魔術師から街へと伝わり、大番狂わせとしてレースに注目する民衆らを賑わせるとともに、キャノンボールがただのレースではなく、チーム同士の生き残りをかけたサバイバルレースで有る事を、改めて知らしめる結果となった。
そしてレースの不穏さを物語る材料をもう一つ、“聖角”は手に入れることとなる。
“白い死神”が所持していた命令書には、彼らの最優先目的が「琥珀のペンダント」の奪還で有る事が書かれていたのだ。
つまり、“聖角”はいまだターゲットから外れては……いない。
第4話 セルミゲルホルツの攻防
PC達“聖角”は、廃村インメルシェルトにて激戦の末“白い死神を”退けたがその被害は大きく、またしても野営追行者のキャラバンに追いつかれる羽目になった。
しかし、そこで思わぬ収穫を得ることとなる。
一つ目は、ショーニングハーゲンで別れ、野営追行者たちに混ざって追走していた地図製作者「グレイ」が、道中、野営追行者の仲間から得た情報を元に周辺地図をまとめてくれていたようで、エスクまでの地図とポニーを借り受けることが出来た。
二つ目は、混沌の嵐で壊滅したインメルシェルトのシグマー司祭の死体が見つからなかった事で、村を見捨てて逃げたのだと噂され、貶められていたが、かのシグマー司祭の名誉回復を通じて、“聖角”の名声を高めることが出来たことだ。
“聖角”の注目度が上がりレースの挽回にも繋がるのでは、という期待もあり、スカルド詩人「ハルフレズ」は司祭が子供を守るため最後まで村と運命を共にしたことと、“聖角”が果敢に戦いゴールを退け司祭の名誉を回復したことを盛り込んだ詩を歌い上げたところ、その内容は野営追行者たちの心を捉える程の出来となった。
翌朝、上空を飛ぶ無数の使い魔がもたらした瓦版には、現在のトップ3や脱落チームの情報に混じり、“聖角”の番狂わせが大々的に紙面を賑わせていた。
そんな意気上がる“聖角”に、馬に乗った一行“正統なる血”が接触してくる。
彼らこそは、因縁深きギュンターに雇われた冒険者の一団であった。
ニヤケ顔でペテン師の神ラナルドのサインを臆面もなく掲げる盗賊風の優男「シュラー」を中心に、異国の装束を纏った小柄で饒舌な剣士「テスタール」、死んだ魚のような目の無口な男「アルバート」、顔に前科者の入れ墨を入れた巨漢「フォルカー」の4人組は、最下位出発だったものの野営追行者の中で馬を調達する事に成功したと言う。
一際目立つ異国(エスタリア)の格好で自身の伊達男ぶりをアピールするテスタールと、煌びやかなテスタールの宝石付きのレイピアに目を輝かせ値踏みする盗賊「グレッツェン」を他所に、“聖角”と“正統なる血”は静かに火花を散らせる。
そして“正統なる血”はレースの巻き返しを“聖角”に宣言し、馬を駆り“聖角”を追い抜いて走り去っていくのだった。
最下位となってしまったものの、気を取り直し出発した“聖角”は、次の目的地であるホルツベックの村へ入るが、その場所は休憩などとても期待できない凄惨な地だった。
混沌の嵐の主戦場の一つとなったその村は、人魔双方の死体が文字通り無数に折り重なった“墓場”だったのだ。
“聖角”はその廃村にて、唯一の生者と言えるモールの信者、“黒の護り手”たる「アンセルム」とその従者「ヴェルナー」の二人と出会う。
黒の護り手とはいえ、鎧を脱いでシャツとスボン姿でスコップ片手に作業している姿はただの気のいい男であった。
死者を正しく弔うという教義のもと、勤勉に黙々と死体の供養を進めるアンセルム達に対して河川巡視員「シルベーヌ」は金貨を寄進して彼らを労い、アンセルムもまた“聖角”に「俺たちの仕事を増やすなよ。God Luck!」と死者の列に加わらない事を祈り、送り出した。
しかし幸か不幸か、彼らの祈りはモールの方に聞き届けられる事となる。
この街道の主が未だエンパイアではないのだという事を、“聖角”達も含めたレース参加者たちはこのレース5日目で思い知り、多くの者が「モールの吐息をその首に感じる」事になるのだから。
次の目的地は馬車宿を備え州境警備も整っていた、大きな村セルミゲルホルツ。
これまで廃村が続いていた事もあり、生存者がいるかもしれない場所であることを期待し足の早まる“聖角”だったが、次々と怪物たちがその行く手に立ち塞がってくる。
レース後三度目の遭遇となったゴールの一団の襲撃では、連携を駆使しこれを撃退するも、傷が癒えきっていなかったグレッツェンが重傷を負ってしまう。
しかし、野営を嫌い、街道を強行する事にした結果、今度はハーピーの一団と遭遇してしまう。
空中からかぎ爪で襲ってきては空中へと戻るという一撃離脱の集団戦法に、“聖角”は連携を封じられ苦戦、方陣の一角に立ち射撃で応戦していたシルベーヌは、激しい一撃を受け昏倒してしまう。
残る敵は博徒「ポール」のスリングを中心に地上での迎撃で数を減らしたことで何とか追い返せたが、“聖角”はまたもボロボロになってしまっていた。
その身を引きずり、夜更けの街道を進む“聖角”であったが、セルミゲルホルツに近づくにつれ不吉な喧噪が聞こえてくるようになる。
さらに歩を進め、やがて道が開けた先で目に入ったのは、あちこちに火の手が上がる村の姿と、百人近くと思われる規模で起こっている、冒険者たちとグリーンスキンたちとの大規模な戦闘であった。
村内の状況を確認する間もなく、グリーンスキンの一団は“聖角”を発見し、武装したゴブリンを始め、猪に跨るオークボアボウイ、球形の奇妙な生物スクイッグ、小型のゴブリンの群れスノットリングが次々と襲ってくる。
これに対し、グリーンスキンを不倶戴天の敵とするドワーフである兵士「エギル」は敵の数をものともせず敵の中心へ猛進、装甲と頑健を頼みに己の身を文字どおり“聖角”の盾とし奮戦する。
鬼気迫る血濡れの姿となったグレッチェンも捨て身の突撃でこれに続き、次々と重傷者を出しながらも第一波・第二波を撃退する。
だが、満身創痍となった“聖角”に最後の脅威ブラックオークが迫る。
次の一撃が死に直結しかねない“聖角”の決死の包囲攻撃に対し、それを嘲笑うかのように高い装甲が“聖角”の刃を阻み続け、逆に巨大な刃が“聖角”の命を刻んでいく。
しかし、最後は“聖角”の連携が絶望的な戦況を覆した。
ハルフレズの魔剣「Become heavier」とブラックオークのオーク・チョッパが金属音を立てる度に、オークの武器は次第に重さを増して、扱い難くなる。
重すぎる武器で命中率が悪くなったブラックオークを見抜き、瀕死のポール、グレッツェンを含めた全員でブラックオークを包囲し、隙をこじ開け、ハルバードによるエギルの必殺の一撃を導いたのだ。
ブラックオークが倒されたことでグリーンスキン共は四散、絶望の夜はひとまずの終わりを迎えた。
セルミゲルホルツで先に戦っていた“アナーキーズ・槍船首・バックラー”の3チームはいずれも半数以上が死亡・行方不明ないし重傷という惨状だったが、救援が間に合い治療を手伝った事で、それ以上の死者が出ることは防がれた。
ここで脱落することとなった者たちの無念と激励とを図らずも受けとる事となった“聖角”は、翌朝、次なる目的クルーデンヴァルトを目指すのだった。
今日もまた、都会の魔術師たちの使い魔たちが上空を飛び交い、血を吐き泥水を啜る参加者たちの動向を監視している。
第5話 再編成
セルミゲルホルツの壮絶な激闘を終えた翌朝、次の目的地・クリューデンヴァルトを目指そうとしていたPC達“聖角”だったが、そこに雇い主であるヘルバルト男爵の伝書鳩が飛来する。
その手紙には“聖角”の予想以上の健闘を称える内容に加え、レースの行方に関する重大な情報と提案が示されていた。
先行していた優勝候補チームたちだったが、“聖角”同様に途上のモンスターの襲撃に苦しめられた上、ライバルチーム同士の衝突も勃発していた。
そして、消耗を補いつつ今後のレースでより有利に立つため、クリューデンヴァルトにてトップ3チームを中心にした激しい派閥争いへと発展、小競り合いの状態にあるのだという。
ヘルバルト男爵の提案は、クリューデンヴァルトに小勢力のまま乗り込むのを避け、彼らの抗争が落ち着くまでの猶予期間に昨晩共闘した“槍船首”“アナーキーズ”“Backler”との同盟を図り戦力増強を勧めるもので、“聖角”はその提案を受けもう1日をセルミゲルホルツで費やすことにする。
雇い主への忠誠に篤い“槍船首”、成功への野心に燃える“アナーキーズ”は共に士気を失っておらず、即答とはいかなかったが、兵士・エギルが献身的な負傷治療や重傷者へのケアを図った事もあり、同盟に前向きな返答を得られる。
一方、村内の領主の館は掘り出し物の宝庫で、高級な服を入手した「スカルド詩人」ハルフレズはその用途に思いを巡らし、希少なフルプレートを得た「盗賊」グレッツェンは、あっけなく盗賊としてのアイデンティティを脱ぎ捨て、硬武装に心を躍らせた。
また、「博徒」ポールの拾った虫眼鏡を買い取った「河川巡視員」シルベーヌは琥珀の中に閉じ込められた小さな生き物に興味を示すが、素人の知識では分かる情報は無かった。
そうするうちに野営追行者が到着、野営追行者内で内職しシルベーヌへ返済するための金策をしていた「兵士」レゴラス、狩りの本能を維持すべく森へと入っていた「有角狩人」マグナスも相次いで“聖角”へと合流を果たした。
そして翌朝、伝書鳩のもたらした瓦版により、クリューデンヴァルトでは相次ぐ抗争と統廃合の果てに、ライコフ選帝侯の“栄光への架け橋”、タラベックランドの“待鳴不如帰・風林火山”の優勝候補3チームがそれぞれ中心となった3つのグループへと収束、昨日中に出発した事が報せられた。
また、“槍船首・アナーキーズ”は一晩を経て“聖角”との共闘を承諾。
“槍船首”からはリーダーで堅物だが酒好きな「漁師」ティロ、女好きなティリア出身の「船乗り」グイド、地元のワルから更生した「チンピラ」ラウリンの3人。
そして“アナーキーズ”からはチーズ愛に満ちたムートの「野辺巡視員」ボルトン、記事炎上後炭焼き人へと身をやつしていた元「瓦版売り」コスタの2人が同行する事となった。
かくして総勢12名となった“聖角同盟(仮)”は満を持してクリューデンヴァルトへと出発するのだった。
セルミゲルホルツを出発した直後、“聖角”は前回戦ったグリーンスキン軍勢の生き残りからの襲撃を受けるが、新たな戦力となったメンバーの協力により難なく敵戦力を半減させ、撤退に追い込むことに成功、レースは順調に進むかと思われた。
しかし事件は、危険が去ったと思われたクリューデンヴァルトにて起こっていた。
村へ近づいた“聖角”は、入り口近くでごろつき5人と、彼らに追われて取り囲まれた村人と思われる少女を目撃する。
只ならぬ気配を察知した“聖角”が少女の元に駆け付けると、数の不利を悟ったごろつき達は自分たちが「無銘戦士チーム」の一員であることを漏らし、捨て台詞を残して町の中へと逃げていった。
「少女」マフを開放した“聖角”は、マフからクリューデンヴァルトの現状を聞くことにする。
クリューデンヴァルトにて生き残ったチームが“栄光への架け橋・待鳴不如帰・風林火山”へと統廃合された一方で、悪名高いやり手の「領地代官」ライトドルフ家の“自由革命軍”と山賊崩れで戦力を補充した“無銘戦士”の2チームはそれらに属さず、同盟を組んでいたのだった。
一行はマフからの情報と瓦版の情報をまとめた。
●優勝候補と名高いライコフ選帝侯のチーム「Bridge to the future」は、シュルツ辺境伯の「cross pile」VSレントゲン辺境伯の「タヴァリーシシ」との熾烈な争いを仲裁し、自チームへと取り込んだ。
さらに、ここまでの旅で仲間を失ったケフラー男爵の「The Brother Ship」とアデナウアー男爵の「マリーンシールズ」を吸収する。
結果、17名のチームへと再編成される。
●ヘルダー候の「Wind Woods Volcano」は、傷ついたブリュクナー男爵の「Talabec Tiger」と手を組み、チューチェン男爵の「Talabec Dragon」を攻撃し撃破した後、リヒター男爵の「Solitary Dragon」と同盟を結ぶ。
結果、15名のチームへと再編成される。
●ウルテン侯の「sing for waiting」は、暫く静観していたが、ビューロウ侯の「Tarabec Bower」VSベーリング侯の「sing for kiling」との戦いが起こり、勝利したベーリング侯の「sing for kiling」は、その勢いで「The Viper」を攻撃して打ち破った。
巨大化したベーリング侯の「sing for kiling」だったが、味方に取り込んだ元「The Viper」の一人が裏切りリーダーを殺害するによって分裂、その残党をシーラッハ侯の「sing for making」を掃討している隙にウルテン侯が動く。
ウルテン侯の「sing for waiting」VSシーラッハ侯の「sing for making」VSベーリング侯の「sing for kiling」の残党の三つ巴の戦いに決着をつけたのは、ウルテン侯であった。
結果、ウルテン侯は20名を抱える組織へと再編成された。
●その水面下で、ライトドルフ家の「自由革命軍」と前回脱落したと報じられたクレプス男爵の「無名戦士」は協定を結び、20名の組織へと合併する。
クレプス男爵の「無名戦士」は、元々、無法者の集まりであるため、途中で盗賊などを引き入れて体勢を立て直したと思われる。
そして瓦版の情報通り、昨日相次いで有力チームが出発した後も村に滞在したままだった“自由革命軍・無銘戦士”連合は、他チームが出払った途端に村や周辺の集落へ略奪を開始。
抵抗した村の男たちは軒並み殺され、村で一番大きい宿「こびり付いたソース亭」を占拠した彼らは、若い女性数人を拉致して閉じ込めたのだという。
レゴラスは“自由革命軍・無銘戦士”連合らがレースを諦め略奪品を戦利品として逐電するつもりだと予想。
同じ女性であるグレッツェンや、娘を連れ去られた夫人からなけなしの宝石を手渡され救出を嘆願されたマグナスは、激しい憤りを見せる。
また、ハルフレズはマフを気遣う。
こうして“聖角”は無法者たちとの交戦を決断。
ほどなくして「こびり付いたソース亭」から討って出た“自由革命軍・無銘戦士”連合と対峙する。
だが、ここまで生き延びたチームだけあり、武装・戦術・頭数において死角のない彼らを相手に“聖角”は苦戦する。
“自由革命軍・無銘戦士”連合は、町の大通りをいっぱいに使った陣形を駆使し駆け引きを優位に進め、ボウの斉射によりエギルの利き腕の自由を奪った。
その後、頭数を利用した波状攻撃でティロを前衛から追いやり、少しずつ“聖角”の戦力を削いでいく。
一方で、“自由革命軍・無銘戦士”連合の堅い前衛はなかなか崩せずに戦線は膠着した。
しかし、膠着状態が続いたことが一行に幸運をもたらした。
“聖角”を警戒し全戦力を投入した“自由革命軍・無銘戦士”連合の隙をつき、村人たちが村娘を救出、鋤や鍬を手に戦場を取り囲んで圧迫したのだ。
“聖角”との交戦で負傷者が出始めていた“自由革命軍・無銘戦士”は不利を悟り蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、またしても捨て台詞とともに姿を消すのだった。
歓喜に沸く村人たちから感謝の声や報酬の宝石を受け取る“聖角”だったが、突然マフが怪訝な声を上げる。
その手には、戦闘中にグレッツェンが落とした魔法のカバン「フェザーバック」からこぼれた、琥珀のペンダントが握られていたのだ。
「これって……もしかして……」
再編成後の勢力図
オッズ | 貴族家名 | 出身 | 主要領地(規模) | チーム名(人数) | 合計人数 |
2.1 | ヴァルミア・フォン・ライコフ選帝侯 | オストランド | ヴォルフェンブルグ(街) | Bridge to the future(4) | 17名 |
ゴットホルト・シュルツ辺境伯 | オストマルク | エッセン(村) | cross pile(3) | ||
コンラート・レントゲン辺境伯 | オストマルク | フォルテンハーフ(村) | タヴァーリシシ(2) | ||
ルドルフ・ケフラー男爵 | ノードランド | ディータースハーフェン(街) | The Brother ship(4) | ||
ヘルムート・アデナウアー男爵 | ノードランド | シューテン(村) | マリーンシールズ(4) | ||
3.1 | エリーゼ・クリーグリッツ=ウルテン侯 | タラベックランド | タラブヘイム(市国) | sing for waiting(8) | 20名 |
ヨーゼフ・フォン・ベーリング侯 | タラベックランド | ベック(町) | sing for kiling(1) | ||
マンフレッド・フォン・シーラッハ侯 | タラベックランド | クリューゲンハイム(街) | sing for makeing(7) | ||
ウルリッヒ・フォン・ビューロウ侯 | タラベックランド | ヴェレボルン(村) | Talabec Bower(4) | ||
5.0 | テオドール・フォン・ヘルダー侯 | タラベックランド | ガルンドルフ(村) | Wind Woods Volcano(5) | 15名 |
ヴァルデマール・フォン・チューツェン男爵 | タラベックランド | ヘルムスドルフ(町) | Talabec Dragon(1) | ||
クルト・ブリュックナー男爵 | タラベックランド | オッシノ(村) | Talabec Tiger(5) | ||
フランツ・リヒター男爵 | タラベックランド | チューリン(村) | Solitary dragon(4) | ||
20.5 | ライトドルフ家(領地代官) | アヴァーランド | シュトライッセン(街) | 自由革命軍(10) | 20名 |
40.3 | イマヌエル・クレプス男爵 | スターランド | マルブルグ(村) | 無銘戦士(10) | |
55.5 | フリードリッヒ・ヘルバルト男爵 | ウィッセンランド | シュタインガルト(村) | Heiliges Horn | |
70.0 | カーミラ・フォン・ザクス侯 | アヴァーランド | レンゲンフェルト(町) | Breakers(6) | |
112.6 | マグリッタ・フォン・ヴィトゲンシュタイン男爵 | ライクランド | ヴィトゲンドルフ(町) | THE Wall(5) | |
154.2 | リーンハルト・ギュンター | ミドンランド | なし | Legitimate blood(4) | |
全滅 | アントン・キージンゲル男爵 | スターランド | ブルドルフ(村) | Burning spirit | |
棄権 | レブレヒト・フレーベル男爵 | タラベックランド | ランゲンホーフ(村) | Mob’s | |
全滅 | アルブレヒト・ドン男爵 | タラベックランド | リースク(村) | The Viper | |
棄権 | ギュンター・フォン・ハーゲンフェルズ男爵 | ノードランド | ハーゲンドルフ(町) | ダンチョネ | |
全滅 | ライネル・ラントシュタイナー男爵 | ホックランド | コエリン(村) | Buckler | |
全滅 | グレゴール・アウエルバッハ男爵 | ホックランド | グリュイデン(村) | 白い死神 | |
ユストゥス・ヴィッツイッヒ男爵 | ノードランド | ヴィルヘルムスコーグ(村) | 槍船首(3) | ||
エリーゼ・アルダー男爵 | アヴァーランド | ベルンロッホ(町) | アナーキーズ(2) |
第6話 激震
レース7日目。
クリューデンヴァルトでの死闘を終えた“聖角”は夕暮れと共にその地での休息を取ることにする。
追い払われた“自由革命軍・無銘戦士”の夜襲を警戒するシルベーヌとポールは村の周辺を見回るが、幸いにも彼らは既に近くには居ないようだった。
ハルフレズは、琥珀のペンダントを見た村の少女「マフ」が見せた反応が気になり、話を聞きに彼女の元を訪れ、琥珀のペンダントとエスクの地にまつわるきな臭い噂を聞くことが出来た。
マフと父のパパスは元はホーベルホーフ(クリューデンヴァルトとエスクの中間)の住民であり、パパスはエスクの鉱山で技師として働いていた。
豊富な鉱脈として賑わいを見せていたエスクであったが、その奥には太古の遺跡と思われる金属製の丈夫な扉のようなものが発掘された事で状況は一変する。
3枚羽根の風車のような印が刻まれたその扉は琥珀のペンダントが薄っすらと光る反応を示したが、いかなる方法でも扉を開く事ができなかった。
やがて扉の話がエスク領主であるホックランド選帝侯の耳に入ると、選帝侯は扉の周辺を封鎖し鉱夫たちを追い出し箝口令を敷いた。
更には、その扉の存在を知る者の不審死も相次ぎ、人々は「呪いの扉」として、その扉について口にする者は、やがていなくなったという。
折しもその時、混沌の嵐が起き、ホーベルホーフは混沌のミュータントに襲われ、マフは逃げる途中で父親とはぐれてしまう。
そして、マフの元に戻ったのは仲間の鉱夫によって持ち帰られた父の遺品である琥珀のペンダントだけだった。
翌朝、琥珀の重要性を感じた“聖角”はマフを説得して琥珀を借り受ける事にする。
更に、琥珀が神父の物とマフの物以外にも存在する可能性もあるため、周辺の村から避難してきた村人から琥珀に関する情報を集めてみたが、鉱山にまつわる話は、「呪い」や「口封じ」を信じる村人たちから、それ以上の情報は得られなかった。
かくして朝からやや遅れて出発した“聖角”だったが、ホーベルホーフへの途上で衝撃的な光景を目の当たりにする。
前回PCを苦戦させた“自由革命軍・無銘戦士”連合チームは、山道へと続く森の街道の入り口で無残に引き裂かれた死体となってPCたちを足止めする。
この先の街道を遮るように切り倒された丸太の上には、恐怖の表情が張り付く生首が並べられ、6人分の生首の額に一文字ずつ「GOBACK(とっとと帰れ!)」と刻まれていたのだ。
その死のサインは、“聖角”への敵意と悪意とが剥き出しにされていた。
あれだけの戦力を保持していた彼らを不意打ちであったとはいえ、ここまで一方的に殺戮した存在は、“聖角”を戦慄させるには十分だった。
足跡を探るもその正体は判然とせず、“聖角”はその殺戮の跡を避けて先に進むのが精一杯だった。
中央山地の山道は、死のサインの不安を一層煽る曇天の下、途中、鞭打ち苦行者の一団をやり過ごして更に進んだ先で、ようやく廃村ホーデルホーフへと辿り着いた。
廃村のはずのこの村で“聖角”を出迎えたのは、“鳴待不如帰”の一員である二人のレース参加者であった。
彼らはライコフ選帝侯の使者を名乗り、生き残った全チームによるエスク一斉攻略に加わるよう、“聖角”を迎えに来たというのだ。
折しも降り出した雨を避け、マフの生家へと入った“聖角”は使者達から先行するエスク到着組の現状を聞くことにするが、状況は想像以上に過酷と言えた。
エスクは村というより数十軒の小屋が立つ集落といった規模だが、その至る所に人間やミュータントの死体が横たわっており、生者が近づくと一斉に襲ってくる“不死者の番兵”に守られた鉄壁の地と化していたのだ。
“鳴待不如帰”の使者「ヴィルデマーレ」と「クレヴェール」によれば、エスク到着1番手だったライコフ選帝侯の“栄光への架け橋”、3番手に到着した“鳴待不如帰”と“風林火山”が相次いでエスクに突入するも、敵の数の余りの多さに負傷者が続出し撤退を余儀なくされた(ただし、2番手だった“正統なる血統”は少数だったので静観していた)。
ライコフ選帝侯自身は無傷であるが親衛隊たちは満身創痍であったため、単独勢力でのエスク攻略は困難と判断。
かくして、全チームによるエスク一斉攻略を呼びかけ、決死の森抜けでショートカットをしてきた5番手の“ブレイカーズ&ウォール”も含めた5チームによる共闘が成立したのだが、ライコフ選帝侯は戦力のさらなる充実のため、ダークホース格とも言える“聖角”にも使者を出し、到着までの間はエスク近くの崖上の山道にキャンプを張っているという事だった。
最下位だった“聖角”にとっては渡りに船と言える話ではあったが、琥珀を持つ事や道中の死のサインを見たことで他チームに少なからず疑心を持っていた“聖角”は、共闘には同意するものの、すぐにでも前線へと戻るという使者には同行せず、翌朝後を追うと使者に伝えて彼らを送り出した。
そして翌朝、“聖角”はマフの父の遺品を入手しホーベルホーフを出発、一日半の山道の行程を経てライコフ選帝侯のキャンプに到着し謁見を果たした。
しかし、選帝侯が決めた攻略作戦が「高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する」であることに不安を覚え、リーダーのマグナスを中心に、周辺から戦力を削る策を検討する。
だが、烏合の衆である6チームの足並みを揃える事は不可能だと諦め、翌朝の一斉攻略への参加を決断した。
なし崩し的に決まった共闘、死者ばかりの腐臭漂う戦場、周辺を覆うまとわりつく曇天。
決戦を前にしてもキャンプ地に集う6チームの士気は低かった。
見かねたハルフレズは、この6チームを敵を打ち倒すべく団結する6柱に例え、詩吟で周囲を鼓舞し、僅かではあるが士気を上げる事に成功する。
しかし、神は予定通りに作戦を実行させくれはしなかった。
エスクの外へは出ることができないと思われていたゾンビやスケルトン達が、大挙して夜襲をかけ、キャンプ地への突入を許し乱戦状態となったのだ。
朽ちた体で蠢く不死者たちは見る者に恐怖を植え付け“聖角”も苦戦を強いられる。
更に追い打ちをかけるように、不気味な蝙蝠が飛来したかと思うと巨大な猿のような姿へと変身、『ストリゴイ・ヴァンパイア』としての正体を現し、ライコフ選帝侯へと迫っていたのだ。
ストリゴイ・ヴァンパイアは両手の鋭い爪をうならせ、ライコフ選帝侯の満身創痍の親衛隊を難なくなぎ倒し、救援に入った“正統なる血”の「テスタール」もストリゴイ・ヴァンパイアの猛攻を受け流すことで精いっぱいで、時間稼ぎにしかならなかった。
テスタールは派手に蹴り飛ばされ、選帝侯のテントの中へと蹴り入れられてしまう。
少し遅れたが、ゾンビやスケルトンを退けて駆け付けた“聖角”が最後にストリゴイ・ヴァンパイアへと立ちはだかった。
だが、恐怖と死者とを相手取り続けた“聖角”は既に著しく消耗、重傷を負ったハルフレズは接近戦ができずBecome Heavierを封じられ、ストリゴイ・ヴァンパイアに対する盾を買って出たポールとシルベーヌも相次いで重傷を負わされてしまう。
撤退を良しとしないドワーフの誇りから重傷を負いつつも前線に立つエギルと、かろうじて致命傷を避けていたマグナスが奮戦するが、一瞬の隙を突いたストリゴイは“聖角”を突破し、ライコフ選帝侯の首は地面に転がることとなる。
ライコフ選帝侯の首を掲げたストリゴイは残虐な笑みを浮かべ、誰へともなく「だから、とっとと帰れと言ったのだ」と言い放った。
途中で見かけた生首の死のサインを作ったのは、この怪物だったのだ。
「だが、私の首はまだ落ちていないぞ!」辛うじてシルベーヌが捨て台詞を返すが、ストリゴイは再び蝙蝠へと姿を変え悠々と飛び去った。
殺到したアンデッドが再び骸へ還り、やがて朝が訪れたが、キャンプ地はまさに地獄絵図と化していた。
ライコフ選帝侯をはじめとして、20名を超える死者が出ており、その中には“聖角”の同盟に加わっていた猟師の「ティロ」、船乗りの「グイド」、元瓦版売りの「コスタ」も含まれていた。
レース11日目の朝、折しも都市の魔術師たちの使いカラスたちがキャンプ地にかわら版を降り散らす。
『全チームによる突入作戦実施へ!旗頭はライコフ選帝侯!』『“聖角”がキャンプ地へ合流!いよいよ明朝作戦決行!』『エスク奪還は目前!果たして一番乗りは?!次号乞うご期待!』
空しく踊る紙面に目を向ける者はいなかった。
残された参加チームの内、ライコフ選帝侯を失った“栄光への架け橋”はライコフ選帝侯の亡骸を連れ帰る本体と去就を決めかねるグループとに分裂した。
戦力は半減したものの辛うじて最大派閥を保った“鳴待不如帰”と“風林火山”は軍師格の男の判断により残ったチームでの作戦決行を主張するも、ホーベルホーフでの立て直しの為の後退を余儀なくされる。
“ブレイカーズ&ウォール”は態度を保留するものの後退には同調。
唯一犠牲者の出なかった“正統なる血”はエスク奪還は不可能と判断、皇帝肝煎りのレースの失敗は依頼主・ギュンターの希望を満たす次善の成果と嘯き、他チームと同じく後退を選択した。
そんな中“聖角”はキャンプ地にもう1日滞在する事を選択。
ハルフレズがエスクの地をじかに偵察すべきと主張し、ポール・シルベーヌが同調。
エギルとマグナスらを残し、偵察に長け死霊術の知識を備えた野辺巡視員の「ボルトン」を連れてエスクへと向かうことにした。
空を覆う黒雲から雨が降り始める中、到着した4人は、エスクの集落の様子や建物の配置を確認。
更にポールは不死者の迎撃を試そうと集落内に侵入するも、数体の死体を通過した時点で包囲が始まり命からがら脱出する。
ハルフレズは琥珀の力がアンデッドに通用する事を期待し、再度ポールとシルベーヌに突入を促すが、アンデッドは再び動き出し、琥珀の効果が無いことに一行は落胆する。
だがその刹那、小雨はいつしか雷雨へと変わっていたが、なんと雷に反応して2個の琥珀が光を放ち始めたのだった。
マフから聞いた鉱山奥の扉の逸話を思い出し、光の意味に頭を捻る4人だったが、日暮れが近づいた為にやむなくキャンプ地へと帰還する。
多少の策ではエスクを落とせない事を実感し1日遅れでの後退を選んだ。
やがて12日目の半ばを過ぎた頃、他チームが滞在するホーベルホーフへ“聖角”が到着するが、そこで“鳴待不如帰・風林火山”から再び作戦への合流を迫られる事になる。
彼らの焦りの原因は、この2日間に届いたかわら版にあった。
11日目のかわら版でライコフ選帝侯の戦死と主要チームが後退した事が報じられた事で、レースを主催するカール皇帝は激怒。
12日目のかわら版で『これ以上の撤退は許さん! このまま帰還すれば処刑する!』と宣言していたのだ。
かくして“聖角”は、これまでで最も困難な選択を迫られる事となった。
—-今回の行程—-
《8日目・朝》【街道】
・全滅した自由革命軍・無名戦士の死体の山に遭遇
・鞭打ち苦行者の一行とすれ違う
《8日目・昼》【ホーベルホーフ】
・ライコフ選帝侯の使者から勧誘を受ける
《9日目》【街道】
《10日目・昼》【エスク手前のキャンプ地】
・ライコフ選帝侯の作戦に加わる
《10日目・夜》【エスク手前のキャンプ地】
・ストリゴイヴァンパイアの襲撃によりライコフ選帝侯死亡
《11日目・昼》【エスク】
・エスクの地を直接偵察、琥珀の発光を目撃
・ホーベルホーフへの一時後退を決断
《12日目》【街道】
《13日目・昼》【ホーベルホーフ】
・カール皇帝激怒の報を知る
第7話 黒き死霊術師
時は少しだけ遡り12日目。
しばらく足並みを遅らせて野営追行者の一団に同行していた古参兵・レゴラスと故買屋・グレッツェンが、廃村ホーベルホーフへと到着した。
二人にとって気がかりだったのは、12日目のかわら版にて“聖角”を含めたレース参加者たちが敵の夜襲を受け、一斉攻撃をまとめる予定だったライコフ選帝侯が戦死、他のチームも半壊したという報せであった。
やがて、傷ついた“聖角”を除く他チームが次々と帰還する。
意気消沈する彼らは、カール皇帝の逆鱗を掻い潜るべくライコフ選帝侯の亡骸を持ち帰る任務に就こうとする者、レースからの離脱の道を探る者と様々だったが、その中で“鳴使不如帰”の参謀格アーネストが、突入作戦失敗の原因は合流を遅らせた“聖角”に有り、“聖角”抜きでの一斉突入を説き、他チームをまとめ始めてしまう。
野営追行者からアーネストの工作に関する情報を得たレゴラスだったが、アーネストの巧みな根回しは撤退中から進んでおり、それを止める術は無かった。
そして13日目。
各チームが集うホーベルホーフにカール皇帝お抱えの精鋭・グリフォンライダーの一団が物資を届けに飛来する。
カール皇帝は立ち消え寸前だったレース活性化のためオッズを破格の倍率に引き上げ、更にレース参加者への物資支援を表明。
エスク攻略とレースの成功を厳命してきたのだ。
貴重な回復薬などの支給は有ったものの、これは皇帝からの最終通告ともとれる内容であった。
13日目の午前中に帰還した“聖角”本体はようやく合流し状況を整理、立場をこれ以上悪くしないようアーネストに面会し、誤解を解いてもらうよう交渉を図る。
アーネストの工作は“聖角”を悪者にすることで、レースを瓦解させず他チームをまとめる為のギリギリの策だった事が分かり、アーネストの謝罪とともに、作戦への合流は了承される事となる。
そんな中、古参兵・エギルはストリゴイとの再戦に静かに闘志を募らせる一方で、海賊・ハルフレズは意中の娼婦アゲハ嬢の心を射ようと、エスクの奥にある宝の情報を漏らし身請けをほのめかすものの、愛想笑いを返されるだけに終わる。
意を決したハルフレズはその足で野営追行者の刺青師のもとへ赴き、風に乗って舞う蝶の入れ墨を施してもらい、自身は蝶を逃がす為の風になる事を約束、今度は彼女の心を動かす事に成功する。
仕立て屋に立ち寄ったヴェレナ調査官・シルベーヌとグレッツェンは、そこで別の不穏な情報を聞かされる事となる。
仕立て屋が前回の“自由革命軍・無銘戦士”の惨殺現場で仕入れたという質の良いジャケットに、貴族の者と思われる紋章が付いていた事に気付いたのだ。
クリューデンヴァルトで略奪を働いた“無銘戦士”の身なりの良い新顔の一人が、村人から第3の琥珀を奪い取っていたらしい情報ももたらされ、この2つの点を結んだ先には、ストリゴイを通じてエスクの死霊術師の手に琥珀が渡ってしまった事をも意味してもいた。
静かに13日目の夜を迎えた廃村・ホーベルホーフでは、エギルとレゴラスが虎の子の宝石を大量の酒と食料とに交換し、最後の晩餐とばかりに全チームや野営追行者に振舞って宴を開く行動に出ていた。
カール皇帝からの支援物資の貧しさや野営追行者の食事番の酷い味に不満を抱えていたレース参加者達からは喝采が起き、状況を見たアーネストはすかさず“聖角”の行動と先の雄姿を称えて“聖角”の作戦合流を発表した。
そんな中、琥珀のペンダントを見せびらかしていた悪党・ポールのもとに、“正統なる血”の死んだ魚のような目をした陰気な男・アルバートが近づき、琥珀を貸してほしいと言い出した。
アルバートは金属の学府にて錬金術を専攻する魔術師であり、「第6のエレメント=雷」を閉じ込める「雷電瓶」なるアイテムを開発、その雷電瓶と琥珀を使った実験がしたいと言うのだ。
これまでとはうって変わって、目を輝かせて饒舌になったアルバートの様子に困惑する“聖角”だったが、情報の秘匿が難しくなったと感じた“正統なる血”のリーダー格シュラーと、伊達男・テスタールの2人が話の輪へと加わり、レース参加の事情を明かしてきた。
“正統なる血”の4人はリンハルト=ギュンターに雇われてはいるものの、レースの勝利はあくまでも第2の目的であり、真の目的はエスク鉱山奥の遺跡の中を見る事にあった。
遺跡の存在を知ったシュラーは、遺跡が旧世界以前の存在にして超古代文明を滅ぼした兵器であり、その扉を開くには琥珀の遺物と「第6のエレメント」が必要であると突き止めた。
そして「第6のエレメント」を研究していた金属の学府の見習い魔術師であるアルバート、道案内役としてかつてエスクの鉱夫であったフォルカー、そして護衛役のエスタリア剣士テスタールを呼びこみ、遺跡到達を目指していると語った。
駆け引きを経て、琥珀のペンダント一つと引き換えに、雷電瓶・充電用羊毛・馬一頭を手に入れた“聖角”は、今後の協力はしないものの互いに妨害はしない、奇妙な共闘関係を築くこととなる。
雷電瓶の効果確認の為に実験台となった悪党・ポールは大やけどを負うものの、雷電瓶の力でも琥珀が光る事が立証され、その実験により宴はさらに盛り上がる事となった。
宴の夜が明けて14日目の朝。
“聖角”へと届いた雇い主・ヘルバルト男爵の手紙には、“白い死神”を雇い琥珀の奪取を計っていたアウエルバッハ男爵が、密かに手勢を率いてレースを妨害に出ようとした事で、皇帝の意に背いた反逆罪で捕らえられた事。
アウエルバッハ男爵への尋問により、エスクの独占を目論んだホックランド選帝侯の目的がエスク鉱山奥の古代兵器だと判明した事が記されていた。
陰謀から解放された“聖角”を含め、残った12チーム(7グループ)44名は再びエスクへと出発、レース16日目の正午過ぎには、先日よりも更に厚みを増した雲が上空を覆うエスクへと到着する。
降り出した雨を縫って鉱山の山頂へと吸い込まれるように次々と雷が降り注ぐさまを見たアルバートは「ちっ、少し遅かったか」とつぶやき、雷電瓶の存在なしに死霊術師が「第6のエレメント」の力を手にし扉を開く条件を満たしたのだという事を“聖角”は察する。
それでも目的の為には進むしかない“聖角”はなし崩し的に始まった一斉突撃を追ってエスクの村へと突入した。
前回と違って動きを見せないゾンビたちの様子に、恐怖から解放された各チームは逆に欲に駆られて分裂し、それぞれの思惑で動き出してしまう。
“風林火山・ブレイカーズ”はエスクを突っ切りカール皇帝・死霊術師の両方からの逃亡を選択し駆け抜けていく。
吸血鬼狩人である“十字杭”達は山頂の避雷針を守るストリゴイを発見し復讐戦へ挑む。
鉱山入り口へと先行した“鳴使不如帰”や“鳴街不如帰”達は、一番乗りを果たす為に共闘を忘れて同士討ちを始めてしまう。
入口への突入を阻まれてしまった“聖角”だが、ハルフレズの機転によりゾンビの来襲を装った扇動に成功、再び恐怖に駆られた他チームは同士討ちを辞めて鉱山奥へと入り込み、我先に側道へと逃げ込んでいった。
徐々に静かになり最後に残った“聖角・正統なる血”は滑車を使い最奥部を目指す。
手際よくランタンを用意していたグレッツェンを先頭に奥へと進んだ一行はやがて扉へと到達。
琥珀を置く台座をシルベーヌが見つけ、台座に置いた琥珀に雷電瓶を近づけると扉は静かに左右へと開かれ、最奥部へ続く通路がその姿を見せた。
大理石よりもはるかに整えられた床や石壁、ほのかに光を放つ天井など、見たこともない光景に息をのむ“聖角・正統なる血”だが、扉は既に一度開かれた形跡が有り、この先に死霊術師がいる事は間違いなかった。
通路はらせん状に深く深く下っており、かなりの時間をかけて歩いたのち、ついに巨大な空間へと辿り着く。
そこには超巨大な円筒状の透明な壁がそびえ立ち、黒髪の美貌の女性が浮かび“聖角・正統なる血”を待ち構えていた。
女性は、黒き死霊術師メイサ(略して、黒きメイサ)と名乗り、自身の目的を語りだす。
混沌を退けたエンパイアでは有ったが、その内情は貴族等の特権階級による腐敗に満ちており、命の価値が平等でない社会が形成されている。
そんな社会に価値は無いと断じた彼女は、古代兵器による灼熱の炎と猛毒の雨をエンパイア中にもたらし、社会そのものを破壊しつくしたのち、死という平等で覆うのだと告げる。
やがて広間には大量のゾンビを伴ったストリゴイヴァンパイアが突入し“聖角・正統なる血”との総力戦へと突入する。恐怖により動きを封じられ、メイサの死の魔法に晒される“聖角”だったが、“正統なる血”や同盟しているラウリン・ボルトンがゾンビの一部を受け持ち奮戦、やがて恐怖の解けた“聖角”の面々も戦線へ加わっていく。
レゴラスやポールのスリングがゾンビを打ち抜き、エギルは因縁の相手ストリゴイの元に肉薄。
鋭い爪を掻い潜って放った渾身の一振りはストリゴイを粉砕する事に成功、ストリゴイの支配下に有ったゾンビたちはその場に崩れ落ち脅威を退ける事に成功する。
手勢を失ってしまった黒き死霊術師メイサは、捨て台詞を残して円筒状のガラスの下部に開いた穴の中を、静かに下っていくのであった。
—-これまでの行程—-
《12日目・朝》【ホーベルホーフ】
・レース参加者たちが夜襲を受け壊滅した報せが全土に伝わりカール皇帝激怒
・朝に野営追行者が、昼前には撤退したチームがホーベルホーフに到着
《12日目》【街道:エスク → ホーベルホーフ】
《13日目・朝》【ホーベルホーフ】
・カール皇帝、レースのテコ入れの策を実行し参加者に檄を飛ばす為の支援を送る
・策士アーネストが他チームの取り纏めを計り、突入の足を引っ張ったとして“聖角”を糾弾
《13日目・昼》【ホーベルホーフ】
・遅れて“聖角”本体が到着、他チームの誤解を解き一斉攻略作戦へ再合流
・“正統なる血”の情報を得て、エスク攻略のための非協力的な同盟体制となる
《14日目・朝》【ホーベルホーフ】
・ヘルバルト男爵の手紙により、帝国内部で起きていた陰謀が暴かれ阻止された事を知らされる
《14日目》【街道:ホーベルホーフ → エスク】
《15日目・昼》【エスク】
・一斉攻略作戦のため、全チームにてエスクへ突入
・“聖角・正統なる血”は鉱山奥の扉を通過、ストリゴイを撃破し死霊術師と対峙
第8話 迷惑な遺物
エスクの鉱山地下深く、超古代文明の遺跡内部にて、“咆哮する砲弾”レースは遂に最終局面を迎えていた。
“聖角”がストリゴイヴァンパイアとゾンビ集団を退けた隙に、ゴールと目される黒き死霊術師・メイサは更なる地下へと姿を消していた。
入り口を塞ぐ透明で頑丈な壁をなんとか破壊しそれを追った“聖角”は、その地下で漆黒の泥とも言うべき物体で満たされた、複数の円筒状の金属容器を発見する。
“槍船首”の生き残りであるチンピラ・ラウリンは手で触れてみるが、その正体は分からず、言い様もない不穏さを感じた“聖角”は金属容器には触れずに先へ進むことを選択、閉じられた扉をこじ開けて更に先へと進む。
その後、メイサの仕掛けた罠を警戒し進む“聖角”だったが、幸いにもそれだけの用意はされておらず、やがて通風孔を抜けて山の中腹への出口が発見された。
偵察兵・マグナスが出口の外で見た光景は、麓に見えるエスクにて次々と死体をゾンビとして起動しつつあるメイサの姿であった。
時間を与える事による不利を悟ったマグナスは、後続のメンバーに急ぐよう訴え、足場の悪い斜面を駆け降りる。
他のメンバーもそれに続き、最後の決戦が幕を開けた。
ゾンビたちの肉壁に古参兵・エギルや故買屋・グレッツェンが接敵し、古参兵・レゴラスや悪党・ポールのスリングがメイサに一撃を加えた事でゾンビの増援は止められた。
が、今度は最強の死霊術師に相応しい魔術の猛威が“聖角”を襲い始める。
精気を枯らす突風がレゴラスを重傷に追い込み、魅了に侵された“鳴使不如帰”のアーネストが弓でポールを穿つ。
しかし、それ以上の仕込みを用意できてなかったメイサの抗戦もそれまでであった。
前線に加わったマグナスや海賊・ハルフレズの加勢でゾンビの肉壁はこじ開けられ、駆け抜けたエギルの最後の一閃がメイサを両断。
美しき死霊術師は生きた時間に相応しい姿を取り戻し、力尽き倒れた。
いつの間にか上空を舞っていた使い魔が、眼下の決着を見届け、ここに“咆哮する砲弾”レースは“聖角”の優勝にて幕を下ろすのであった。
首都アルトドルフへと凱旋した“聖角”の面々は、皇帝により称賛を受け、居城前の広場にて群衆の祝福を浴び、雇い主であるヘルバルト男爵より賞金を受け取った。
しかし、混沌の嵐から間もないエンパイアにおいて、享楽と饗宴はあっという間に終わりを告げる。
真っ先に“聖角”に別れを告げたのは、ヴェレナ調査官となったシルベーヌだった。
美女・メイサの末路を見届けたシルベーヌは、真実と正義の女神・ヴェレナに魅せられ、いつか彼女の寵愛を受けるべく、公正と叡智を女神へと捧げる為の旅へと出た。
同じく運命に魅せられた出会いを果たしたのは、海賊・ハルフレズだった。
“聖角”の凱旋を見物していた孤児の少年・ロットを見出したハルフレズは、彼を自身が探し求めていた勇者と定め、未来の勇者の雄姿を語る詩人として、放浪の旅に連れ立って行った。
“聖角”の中でも特に優れた武功をアルトドルフ中に見せつけた古参兵・エギルは、様々な貴族から引く手数多の立場となっていた。
そして、最も高くその武勲を買ったウルテン侯に騎士として取り立てられ、熾烈な覇権争いが続くタラベックランドへと降り立つ事となった。
多くのメンバーが結果として受け取らなかった“タールの牙”周辺の店子の権利を一手に引き受けたのは、古参兵・レゴラスと故買屋・グレッツェンだった。“混沌の嵐”“咆哮する大砲の弾”で前線で武器を振るい続けたレゴラスだったが、戦いには限界を感じていた。そして、一店主として平穏な生活を望み、それを手に入れたのだった。合計6人分の店舗を切り盛りする事となったが、その仕入れは故買屋・グレッツェンの独壇場でもあった。
裏通りの一角に腰を据えたグレッツェンは、時折怪しい物品を入手してはレゴラスに売り捌かせ、裏帳簿を見ながらほくそ笑む生活へと落ち着いた。
悪党・ポールは、博徒としての血を抑えられず、賭けに買って得た賞金1200枚以上の金貨を元手に、更なる勝負へ挑むことにした。
勝てば貴族の地位に手が届くところではあったが、結果は無常にも敗北に終わる。
一文無しとなったポールは、そのままレゴラスの店に居つく事になった。
偵察兵・マグナスは、レースの後も森へと戻ることを選択しなかった。
戦いを通じて、故郷の森に籠り森の掟の中だけで森を守ることは困難だと悟ったマグナスは、森を脅かす混沌へ積極的に挑み続ける事に新たな信仰を得て、タールの騎士団の偵察兵として戦う事を決めた。
こうして、“聖角”達の道は分かれたが、新たなるそれぞれのレースが始まるのであった。
《完》
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