ウッドエルフ

ウォーハンマー・アーミーブックより
アンソニー レイノルズ(執筆)
マシュー ワード(執筆)

アセル・ロウレン。
他種族にはロウレンの森として知られるかの地こそ、オールドワールド最古の森であり、「旧き者」のしもべによって植えられた苗木から最初の木々が育ったという神秘の地である。
大陸の奥地にあって、その影は深く、そして長い。

この森が不思謙な独自の意志を持つにいたったのが、はたして「旧き者」の計画によるものか、それともケイオスの襲来によって木々が目覚めた偶然の結果なのか、はっきりと知る者はない。
わかっているのは、歴史の黎明期、すでにこの森の木々は「心」を持っていたということだけだ。
植物には本来ないはずの「怒り」や「憎悪」といった感情を身につけた森は、自我に目覚めることになった。
やがて彼らは、まるで虫のようにこの世界を這いずっているさまざまな種族の存在に気づき、その者たちが何を意図しているのかを知って、不快感をおぼえたのである。

森と外界を隔てる境界線には、エルフのルーン文字が刻まれ、風雨によってすり減った「境界石」がいくつも立てられている。
境界石の内側にそびえ立つ巨木たちは、枝々をゆっくりと動かして、まるで境界石群が形作る結界を内側から破ろうとあがいているかのようだ。

苔むした岩と豊かな土核でおおわれた地面にはねじくれた根が伸び、窪地や湿地には大地を覆い隠すように霧がたなびいている。
この森を歩く者は、視界の隅をひっきりなしに何かがかすめ、声ともつかぬ耳慣れぬ音が聞こえては、常に見張られているような視線を感じ続けるであろう。
かくのごとき緑の迷宮にあっては、このうえなく勇敢な者でも落ち着いてはいられないはずだ。
頭上の枝々、あるいは密生した下生えの陰を、小さくて黒い何かがさっと通り抜ける。
だが、それは常に視界の端で、はっきりと見てとることはできない。
そんな感覚が、かの森を歩く者には絶えずつきまとうし、それらの感覚はけして気のせいではない。

かの森は、自分の中で起こっていることをすべて見聞きしており、侵入者があれば、躊躇うことなく破滅の審判をくだす。
このような悪しき精霊の跳梁跋扈するロウレンの森にあえて入ろうとするのは、よほど豪胆な者か、あるいはただの愚か者だけだ。

ロウレンの森にあっては、外界の物理法則を無視して時間が流れる。
喑い森の中を歩む者にとってほんの数時間と思われる間に、外界では百年が経過していたり、逆に十年も森をさまよったはずなのに、外界では数分しか経っていなかったりするのだ(仮に外界に戻れることができれば、の話である)。

アセル・ロウレンは、文学的な意味ではなく、文字通りの意味で「生きて」おり、動き、形を変えることさえできる。
ある夜には空き地であった場所が、次の朝には樹木が密集していたり、何時間か前には確かにあったはずの道が突然消えてしまうのは、ここではきわめてありふれたことだ。

アセル・ロウレンに入ろうとする者の多くは、最初、いくら前へ前へと歩いても、気づくと出発地点に戻るはめになるだろう。
たとえまっすぐな道をひたすら奥へ進んでいるつもりでも、その道はなぜか旅人を森の外へと導くのだ。
それでもなおアセル・ロウレンに入ろうとした旅人が辿るのは、おぞましい運命だ。
うわごとを口走る狂人となった旅人が、森のすぐ外で発見されることは少なくない。
魔法の森で彼がどんな恐怖に遭遇したのか。
それは、もはや誰にも分からない。

もっとも、森の外まで生きて戻って来れたのだから、運が良かった部類に入るのだろう。
とはいえ、精霊たちがみな、外の世界で暮らす他種族を忌み嫌っているわけではない。
並外れた才覚や幸運の持ち主であれば、木もれ日に導かれたり、偶然の巡り合わせなど
によって、刻々と変化する森で正しい道を見出せることがあるかもしれないからだ。
そのため、隠された知識や財宝にまつわるおとぎ話に魅了され、自分の運や力を信じて、
暗い森に踏み込む者があとを絶たないのだ。

アセル・ロウレンの各地には、ウッドエルフの貴人たちが住まう魔法の館がある。
そこは幽玄な音楽が流れ、秋風にそよぐ葉のざわめきにも似た笑い声が聞かれる、やわらかな光に満ちた場所だ。
館の扉は、古木の幹で織りなされていたり、芝々の丘の斜面にぽっかりとあいた穴の中にあったりするようだ。
もっとも、これらの入り口はたくみに隠されており、歓迎されない客は、たとえそのすぐ側を通ってもそれと気づかないほどである。

こうした不思議な入り口を通って館の中に入ると、巨木の下や丘の地下深くに広がった、壮麗な大空洞に出る。
そこでは天井高くに木の根が見え、それが緩やかな曲線を描きながら優美に絡まりあい、天井と床をつなぐ柱を形づくっているのだ。
これがウッドエルフの住まいであり、この世のものとも思えぬ美の殿堂である。
広間のそこかしこで灯る優美な明かりの中には、発光する幽玄な姿たちが踊っているのが見えるだろう。
このおごそかな広間にあって、ウッドエルフたちは流転する森の自然を寿いで祝宴を催し、森で獲れた食物と口当たりのなめらかなワインを楽しむのだ。

広間は、激しい踊りや豊かな旋律の音楽、絶えることのない陽気な笑い声などでいつも満たされている。
ここで嬉々として給仕にいそしんでいるのは、森の外から連れてこられた少年たちだ。
この子供たちは永遠に年をとることなく、エルフの主人に仕えつづけるのである。

旅の途上にあるブレトニアの求道騎士のような、外界からの客人が宴席に招かれることもあるようだ。
ただ、これはごく稀なことである。
招待されてもいないのにエルフの食物や飲物に手を出すのは、愚か者の所業でしかない。

エルフがアセル・ロウレンの周辺とその中に住んで、ほぼ5000年になる。
この歳月の間に、彼らの性質は森の影響で次第に変化し、今や森と強い絆で結ばれるにいたった。
他のエルフとのつながりを捨てたウッドエルフたちは、ことさら猜疑心が強く排他的で、よそ者すべてを、忌避している。
彼らはアセル・ロウレンの守り手であり、その運命は森と完全に一体化しているのだ。
万一にも森が滅ぶようなことがあれば、ウッドエルフも共に滅びを選ぶであろう。

他種族の目から見ると、ウッドエルフの言動は気まぐれで予測がつかず、一貫した信念すらないように思える。
大自然がそうであるように、彼らには通俗的な意味での「善悪」の観念を持たないのだ。
アセル・ロウレンとウッドエルフに、他種族の価値観を簡単にあてはめることはできない。
鏡のように静かな湖の如く美しく、穏やかで魅力的に見えるときもあれば、すべてを巻き込んで破壊をもたらす嵐のように荒れ狂うこともある。
それが彼らなのだ。

森に侵入した者たちに対する仕打ちは,彼らの不明瞭な性質を如実に語っている。
ある者はアセル・ロウレンの外へと優しく導かれ、ある者は情け容赦なくいきなり殺されるのだから。
実際、肋骨にまだ矢が突き刺さったままの骸や、眼窩から矢が突き出たままのしゃれこうベなど、アセル・ロウレンの外縁部では、数々の死体が、野ざらしのまま打ち捨てられている。これらの哀れな死体は、やがて森の獣に運び去られるか、木の根に絡め取られ、土に還ってゆくのだ。

ウッドエルフた.ちは、片時も油断することなくアセル・ロウレンを守っている。
たとえ一片の悪意も持っていなくとも、森に入る者はすべて疑いと憎しみの目を向けられ、多くは悲惨な末路を迎えることになるであろう。

ウッドエルフは外界に全くといっていいほど興味を持たないし、他種族の営みなど、ほとんど気にかけていない。
とはいえ、やむをえず森の外界の戦争に参加することもある。
だが、それは故郷を将来の脅威から守るため、仕方なくおもむく戦争でしかない。
自分たちの住まう魔法の森から出ずに生きられるのであれば、彼らは喜んで森にとどまるだろう。
だが、アセル・ロウレンは、侵入をもくろむ敵にいついかなるときも狙われている。
それゆえに、森を汚そうとする者たちとの戦いはけして終わることなどない。

何の前ぶれもなく飛来する必殺の矢。
そして音もなく出現し、情け容赦なく敵を切り倒した後、亡霊のように森の奥へと消えていく戦士たち。
比類なき弓の射手たちがそろい、信じられないほど静かに行動できるウッドエルフは、敵に回すと非常に手ごわい相手となるであろう。

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