エンパイアにおける異国の神々
エンパイア人のほとんどが異国の神々を軽蔑しており、シグマー信仰から逸脱すること自体をとうてい理解しがたいものと感じている。
シャリアやモールといった神々の信仰も広く波及しているが、他国には独自の神々があり、エンパイア国内でも多少は信者を獲得している。
間違いなくそれらの中でもっとも重要なのがミュルミディアである。
彼女は元々ティリアとエスタリアの女神であったが、 教団の人気と影響力を強めたことにより、エンパイアの南部のある地域では、もはや異国の女神とは見なされていないのである。
しかし北部では、女神の起源が南方にあることについて、未だ記憶されており、疑いの目を向けられている。
それ以外の異国の神々には少数の信者しかおらず、エンパイアの神々もしくは禍つ神々の一側面か下僕と見なされている。
これらの主張はエンパイアとその国の関係によって決定する。
そのために、ノース人の略奪者たちの凶暴な神々は、たびたび暗黒の神々、とりわけ“戦の王”の一側面と見なされる。
エンパイアで暮らすノース人の狂戦士たちは、一般的に少なくともウルリックに公然とした忠誠を捧げており、大方の見るところでは、ウルリックへの信仰をウルサシュの名において行なっているようである。
ブレトニアの守護神である“湖の淑女”は、自国以外ではほとんど信仰されておらず、ブレトニア人からの移住者にその信仰が限定される。
エンパイアでもっとも一般的な意見は、彼女はミュルミディアの家臣か、女神の一側面であるというものである。
ミュルミディア信者には、“湖の淑女”が自分の信じる女神に仕えていると考える傾向があるが、他の神を信じる者のほとんどは、“湖の淑女”とはミュルミディアの単なる異名に過ぎないと考えている。
キスレヴの神々は、一般的にエンパイアの主神の一側面として見なされる。
熊神ウルスンはタールと関連付けられ、嵐の神トールは一般的にウルリックか、またタールと関連付けられる。
炎と太陽の神ダァジはタールと関連付けられていたが、最近ミュルミディアと同一視されることが急激に一般的になった。
しかし、北部エンパイアのかなりの者たちは、キスレヴの神々を独立した存在とし、それ自体で崇める価値があると見なしている。
これら三柱の神々は、エンパイアではその教団は小規模なので、一般的に一緒に祭られる。
しかし、このような聖堂は、キスレヴの国境に近いエンパイアでは、たとえばモールやヴエレナの聖堂と同じように一般的である。
数世紀わたってキスレヴが混沌の軍勢への防波堤として重要な友邦であったことから、キスレヴの神々への態度は徐々に好意的になっている。
たとえば、タールとウルスンの教団は、方向性がとても似ているために非常に良好な関係を築いている。
タール信者はウルスン信者が熊を過度に重要視することをいささか異様なことと見ており、その一方でウルスン信者は、どうしてタールの信者が熊の姿をしたものの真の優位性を見誤ろうとするのかが理解できない。
他には、ウルリック教団員は、 ウルスン信者を敵ではない競争相手と見なしがちであり、そんな見方はお互い様なのである。
どの教団も己の優位性を証明したがるが、他教団も多くの優れた点を持っていることを認めてはいる。
下位神はしばしば異国の神々と同一視される。
たとえば、商業の神は、エンパイアではハントリッヒで、荒ケ原ではヘンドリクで、エスタリアではオー•プロスペロで、テイリアではメルコピオである。
教団の内外を問わずにたいていの者は、それらをみな同一の神の異なる名称だと考えがちである。
しかし、それらの名称のひとつの勢いが盛んになって他を組み従えようとしはじめたなら、そうした状況も一変しうる。
国名 | 神格 | 支配領域 |
ブレトニア | 湖の淑女(Lady of the Lake) | ブレトニア全域の騎士と貴族 |
エスタリア | オー・プロスペロ(O・Prospero) | 商人 |
キスレヴ | ダァジ(Dazh) | 炎、太陽、招待客 |
トール(Tor) | 嵐、戦い | |
ウルスン(Ursun) | 熊 | |
ノーシャ | メルメデウス(Mermedus) | 鉤爪湾 |
ウルサシュ(Ursash) | 熊狩り | |
ティリア | ルカン(Lucan) | ルッシーニ(ルッシーナの双子) |
ルッシーナ(Luccina) | ルッシーニ(ルカンの双子) | |
メルコピオ(Mercopio) | 商人 | |
ボーダープリンス | グンドレッド(Gunndred) | 家畜泥棒(とりわけ牛泥棒) |
マリエンブルグ | ハントリッヒ(Handrich) | 交易商、商人、中産階級 |
禁教
魔狩人が異端信仰者と悪魔崇拝者を根絶やしにすべく最大限の努力を払っているのにも関わらず、シグマーの国は異端の神の教団に脅かされ続けている。
彼らは暗がりにゴキブリのように群がり、恐るべき早さで増殖し、疑いを知らぬ愚か者たちを誘引して、何らかの邪悪な烙印を受けいれさせる。
そうした闇の組織の大半が禍つ神々を崇めているが、必ずしもそうとは限らない。
神格とその教団が禁教とされる理由は多岐にわたり、嫌悪感をもたらす行事や、混沌の穢れを奉じる原始的ないし野蛮な教条といったものから、単純に好ましからざる政治思想にいたるまで様々だ。
真っ正直で嘘のつけない教団員が、教義に反するか、司祭の政治的な策謀の妨げになるといった理由で異端の焼き印を押された例は、それこそ枚挙に暇がない。
異端信仰は、火刑台による死刑に処される。
エンパイアの異端信仰を浄化しようと奮闘する者たちは、無害だが禁じられた下位神信仰の信者だろうと、禍つ神々の祭壇に罪なき者を捧げる狂信者だろうと区別などしない。
魔狩人に言わせれば、いずれも五十歩百歩なのだ。
そうした禁圧活動の甲斐もなく、邪教徒の数は尽きる気配もない。
異端の世界は、誘惑の力が強く、快楽を提供し、魅惑的であり、退屈な重労働から逃れさせてくれる最高の手段でありつづけている。
禁教?それとも混沌信仰?
凡百の異端教団にくわわることと、禍つ神々を崇めることの間には、紙一重ほどだが明確な差がある。
大部分の禁教信奉者にとって、暗黒の神々に仕えるなどはまったくもって論外のことである。
そうした教団はいずれも、森羅万象の働きについての“真理”が、自分たちの教義の中だけにあるのだと信じている。
一般的な教団の正統な教えに同意していないからといって、混沌教団員であるとは限らないというのが彼らの主張だ。
ただし、魔狩人は単純明快な論拠を固守する。
エンパイアの教団はすべからく、神々を敬うためにふさわしいことと、ふさわしからざることを定めるものだと魔狩人たちは主張する。
それらの教団は神の意志を定命者たちに提示するためにあり、神から示された真理に従っているというのだ。
それゆえ、認可された教団の掲げる真実に異を唱える者は、堕落しており、そのため、あらゆる混沌変異と同様に滅ぼすべき、ということになる。
これはあまりにも単純化したとらえ方で、魔狩人は良心を欠いた無感動な連中だなどという悪口の中で持ち出されがちだが、そうでありながらも、前述の魔狩人たちの主張にはある程度の正当性と慈悲深さとが見てとれる。
混沌の神々は多頭の獣であり、数限りない姿に扮し、そのいずれもが劇的に異なる流儀で崇められている。
明らかに仮面をかぶった一面もあるし、よりあいまいな一面もある。
そうした魔神は、信者を誘惑するか、儀式に参加させるために、エンパイアの真の神々を偽装することさえある。
だからこそ司祭たちは定命者たちを正しい道筋へ導かねばならないのだし、正統な教団の権威をないがしろにしたり、衰えさせようとしたりする者たちの動きは止めなければならないのである。
禁教の神々
禁教の神 | 支配領域 | 信仰者 |
カイン | 殺人 | 殺人者、暗殺者、ダークエルフ |
ゾルテン | 専制政治と圧政 | 為政者、批評家、兵士 |
ストロムフェルズ | 大海の捕食者、海洋の危険、大嵐 | 難破船荒らし、海賊、海の略奪者 |
ヴェルマル | 退廃、飲酒、放蕩 | 貴族、飲んだくれ、売春婦 |
アハルト | 狩り、繫殖、タールとリアへの復讐 | ソル川沿岸からウィッセンランド、ズィルヴァニアまでの一部の一般民衆 |
黄色い牙 | スケイブンによる国家転覆、新秩序 | 西ミドンランド、北ライクランド |
異種族の神々
以下の神々は、エンパイアに定住した人間以外の種族が崇めるものである。
ドワーフの神々
ドワーフの宗教は祖先崇拝を中心として、その偉業を祝い、その遺産に感謝を捧げるものである。
ドワーフは万神殿をなす多様な神々を信仰しているような印象もあるが、その神々とは彼らの先祖のなかでもことに重要な、どの氏族にも存在する始祖のことなのである。
ドワーフは禁欲的で人前にでることを好まない民で、それは彼らの宗教にも表れている。
ドワーフが自分たちの宗教について口にすることは稀であり、彼らが祈りを捧げる姿は想像しがたい。
彼らの神殿は要塞都市の奥底だけにある。
ドワーフの信仰とは個人と神との私的な事項であり、大勢が集まって儀式や礼拝をするなどという話は聞かない。
ドワーフたちは祈りを捧げる代わりに、祖先の英雄的な偉業を語り、歌い、祝うことで、彼らの神々を崇拝するのである。
エンパイア在住のドワーフや、人間たちに混じって暮らしているドワーフにとって、そうした行為はなおさら重要である。
それこれが、故国との絆を維持する方法であるからである。
大規模なドワーフ居住区のあるエンパイアの大都市には、ドワーフたちのために大がかりな聖堂がある。
人間たちは、完全に理解していないにせよ、もっとも親しい同朋の神に敬意を払うのが常である。
特にシグマー信者は、シグマーとドワーフの神々に多分の類似点を見出して、多いに敬意を払う。
一方、たいていのドワーフは、シグマーの人間としての偉業は讚えるが、崇拝まではしていない。
なかには、ドワーフの神々に強い親近感を抱くようになる人間もいる。
特に影響力の強いドワーフの共同体がある町や都市に多く、ドワーフたちを困惑させることに、人間の神々と同じようにドワーフの神々を崇拝するのだ。
とりわけグルングニには、人間の信者が多い。
わけても熟練工には信者が多く、ナルンには人間の手で築かれたグルングニの神殿があるほどである。
氏族や要塞都市ごとに、さらには家族単位でも独自の神を崇めるため、ドワーフ大祖神の数たるや無数と言っていい。
しかしながら、あらゆるドワーフが崇拝の対象とする大祖神もまた存在する。
以下にあげる三柱である。
名前 | 支配領域 | 信仰地域 | 信仰者 |
グルングニ | 職人、鉱夫 | ドワーフの城塞都市、ナルン | 職人、鉱夫、鍛冶屋 |
バラヤ | ドワーフの要塞都市 | 要塞都市 | ドワーフ全般 |
グリムニル | 戦士、スレイヤー | 要塞都市 | 戦士、スレイヤー |
エルフの神々
エルフの神々について人間に尋ねれば、どこかで耳にした突拍子もない噂を話してくれるかもしれないが、そこに事実はつゆほどもないだろう。
エルフという種族がそうであるように、エルフの宗教も謎に包まれているからである。
エルフは、ドワーフや人間と同様の万神殿を信仰しているが、他種族が容易に認識できるようなやり方はとらない。
エルフの文化は、神秘と魔法に満ちており、エルフたちは己の周りと、己の中に神々がいることを信じている。
エルフは、自分のすべての行動と思考は、崇めるべき神秘であると考えており、それ故に彼らが行なうすべてのことは、何かしら神々と関連付けられるものであり、すべての行動はそれ自体で祈りとなるのである。
エルフたちがどのように神を祀るのかや、どのような儀式を行なうのかは、不明である。
ともかくエルフは長寿であるので、神のとらえ方が人間などの短命な種族とは必然的に異なるという推論がある。
エルフはひとりひとりが神なのだ!という極論をささやく者たちすらいる。
エルフの神々を理解したと公言した人間はおらず、たいていの人間は、エルフは神々を信じないのか、もしくは人間の万神殿を異なる側面から信仰しているのだと信じている。
もちろんエルフたちは反対に、人間の神々のいっさいはエルフの神々を歪曲したものに過ぎないのだと考えている。
真実は、おそらく両者の中間のどこかにあるのだろう。
理解不足のために、エルフの神々を信仰する人間はとても少ない――エルフの文化は把握するには異質すぎ、彼らの神々はあやふやで理解不能にすぎるのである。
エンパイアで暮らすエルフたちは、どこでも変わらぬやり方で神々を信仰し続けてきた。
彼らの宗教に形式はなく、あらゆる崇拝がごく個人的に行なわれるからである。
頻繁にエルフが訪れる大都市、とりわけマリエンブルグでは、エルフの神々の小さな聖堂が
見かけられる。
ウッド・エルフは万神殿のすべてを崇めているが、狩人の神でエルフの父親のクルノスと、多産の女神でエルフの母親のイシャを、他の神よりも崇拝している。
ウッド・エルフの社会では、これらの神々に高い地位を与えている。
理由はおそらく、彼らの王と女王――オリオンとアリェルーが、クルノスとイシャの化身の役割
を果たしているからである。
名前 | 支配領域 | 信仰地域 | 信仰者 |
アシュリアン | エルフの臣民、不死鳥王 | ウルサーン | エルフ全般 |
ホエス | 知識、学問、知恵 | ウルサーン(特にサーフェリィ) | 学者、魔導師 |
イシャ | 自然、多産、子供、エルフの種 | ウルサーン(特にアヴェロン)、ロゥレンの森、ローレローンの森 | ウッドエルフ、母親、農夫、偵察兵 |
カイン | 殺人と戦争 | ウルサーン、ナーガロス | ダークエルフ、殺人者 |
クルノス | 狩り | ロゥレンの森、ローレローンの森 | ウッドエルフ、狩人、偵察兵 |
リリス | 夢、幸運、啓示 | ウルサーン | 占い師、予言師 |
ロエック | 楽しみ、音楽、悪戯 | ロゥレンの森 | ウッドエルフ |
マスラン | 海、嵐、探検、船乗り | ウルサーン、マリエンブルグ | 船乗り、探検家、商人 |
モライ=ヘグ | 宿命、死 | ウルサーン | 予言師 |
ヴァール | 鍛冶、工芸職人 | ウルサーン | 鍛冶屋、工芸職人 |
ハーフリングの神々
エンパイアに定住する種族のなかでも、ハーフリングほどに信仰心の曖昧なものはいないと言っても差し支えないだろう。
ハーフリングたちは、遠い昔の英雄と偉業よりも、現在の当地の出来事を祝うのを好み、必要ならば神を崇めるが、信心深さに凝り固まるようなことはない。
たいていのエンパイアの民、とりわけスターランドの者はハーフリングが崇めるものは、自分の瓶に入ったお酒と、腹に入った食べ物だけだと言うだろう。
ハー フリングがさほど信心深くないことは事実であり、彼らのどこかしら能天気な性質は、厳格で系統だった宗教にはそぐわない。
崇める時には、ハーフリングの神々は往々にして宴会の見え透いた口実に利用される(とても多くの人間が、同様のことをしているのが真実ではある――ハーフリングたちは、自分たちの意欲により忠実なだけなのである)。
名前 | 支配領域 | 信仰地域 | 信仰者 |
エスメラルダ | 暖炉と家庭 | ムート | 母親、パン職人 |
ゲフェイ | 建築、村 | ムート | 大工、村の長老 |
ヒャシンス | 多産、子供 | ムート | 母親、産婆 |
ヨシアス | 養殖、農業 | ムート | 農家 |
フィニアス | タバコ | ムート | 喫煙者 |
クウィンズベリー | 先祖、伝統 | ムート | 村の長老 |
他のハーフリングの神々
ハーフリングには他にも数柱の神格があるが、それらはエスメラルダにもまして、状況に応じていくぶん場当たり的に崇められている。
そうした下位神に、農夫の神ヨシアスがあり、農耕期の始まりと終わりの春と夏に祈りが捧げられる。
多産と出産の女神ヒャシンスは、多くの母親と産婆が出産の際に祈りを捧げるものである。
喫煙の神フィニアスは、常に煙草が一杯につめられたポーチで知られている。
建築と村の神ゲフェイと、家系と伝統の神クウィンズべリーもいる。
エンパイアでもより辺鄙な地方、とりわけムー卜に近い地域(ハーフリングの神々を軽蔑しているスターランドは、全くもって例外である)では、人間の神々と同じようにハーフリングの神々に感謝を捧げている者たちもいる。
人間外種族の聖職者
オールド・ワールドの覇権を握ったと主張する人間たちと、その世界を人間と分かち合う他種族とのあいだには、目に見えた違いがある。
肉体的な違い(そもそもドワーフを人間と間違えるものがいるだろうか)や文化の違い(パイに夢中ではないハーフリングに会った者がいるのか?)、それに個性といった観点もある。
それらはちょっとした差違であり、ごくささいなことにすぎない。
そして、共通の敵を前にしたなら、エンパイアの偉大な四種族は、あらゆる差違を脇にのけて力を合わせる。
厄介なグリーンスキン、混沌の軍勢、不浄種スケイブンといった敵に、共同して立ち向かうのだ。
ただし、そうした征伐の合間には、種族間の差違が激化することもある。
なお言うまでもなく、オールド・ワールドのどの種族にとっても解消できそうにない差違は、神々のとらえ方についてのものである。
人間が賢者や、神の恩寵のあつい者に神へのとりなしを任せて事足れりとしている一方で、他の種族はそうした仲介者を必要としない。
神々の概念には重なり合う部分も多いのであるが、人間が考える宗教の役割は、エルフやドワーフ、ハーフリングには全くもってなじまないものである。
エルフを例に挙げよう。
エルフの万神殿を構成する多くの神が、現在エンパイアで信仰されている神々に直接つながる先祖なのである。
しかしながらエルフたちは、神秘の繫がりによって神々と直接交信できるのだと主張する。
言うなれば、あらゆるエルフは司祭の役割を果たし、彼らの社会と種族に結びついた精霊と直接交信することができるのである。
ドワーフは、宗教について無論独自の考えを持っている。
ルーンの技術以外に彼らは如何なる魔術も使えないため、ドワーフは標準的な意味では司祭になれない。
確かに伝承の護り手と呼ばれる多くのドワーフが、赤子を祝福し、祖先について物語りをし、戦の際には指導者に助言をしているが、ドワーフが神の力と直接交信しているという考えは、全くもって戯言である(異端者は正反対の主張をするわけだが)。
ドワーフが祖先を神聖な存在だと見なしていることは、重要であり忘れてはならない。
彼は先人の行動から洞察を得ており、だからこそ栄光をもたらす英雄的な行為と、遺恨となる不誠実な裏切り行為を記録することが、ドワーフにとってきわめて重要なのである。
そうした出来事に際して、神々が御言葉を発するからである。
四大種族ではハーフリングが、もっとも不敬だ。
魔法の才がないことを別にしても、この小さい民は全くもって何かを崇めるということはそぐわないため、その話題に触れるだけでもずっと笑い飛ばされる羽目になる。
無教養の愚か者が教訓を得るのは、多分ふさわしい窃盗罪を処された時だろう。
ハーフリングたちにも神々がいることはいるが、誰も何かの名前の下に毎日、毎晩平伏するということはしないだろう。
何も行なわないが、辺りに座って食事をし、同胞たちといちゃついたりする目に見えない存在は、放置しておくだろう。
ハーフリングが信心深い雰囲気に包まれるのは祝祭の時で、地域の住民数名が選ばれて儀式を主宰するわけだが、彼らにはあまり酔っぱらいすぎないように多額の賄賂が贈られる。
少なくとも儀式の体裁くらいは彼らに整えてもらわねばならないからである。
神々とモンスター
オールド・ワールドのモンスターの多くが、独自の神々を崇めている。
ただし、彼らの行為が本当に“信仰”と呼ぶに値するかには議論の余地がある。
たとえばグリーンスキンは、神を讚えるために悪臭を放つ糞便の山を築く。
そのような行為が特定の名前をつけて呼ぶに値するとは、ましてや“信仰”などという崇高な名で呼ぶにふさわしいとは、およそ考えがたいものである。
抜きんでて強力なモンスターの中には、他のモンスターや見当違いの人間から神と崇められているものもある。
とりわけディーモンにはその傾向が顕著であり、禍つ神々の面相をより受け入れやすい仮面で隠すことにより、信仰を集めている。
強力なアンデッド、それもとりわけ非実体のものや、知性を具えた強力なモンスターもまた、崇拝の対象たり得る。
ビーストマンの群れは、一見した限りでは暗黒の神々をじかに信仰しているようには見えないかも知れないが、彼らの忠誠心はいついつでも、四大不浄神に向けられうるのだ。
エンパイアの学者たちは、主要なモンスターの神について名称と信仰のあらまし程度は突き止めてきたが、魔狩人から異端の証と見なされてはかなわないので、この問題にわざわざ深入りする者はほとんどいない。
ヴェレナ神殿以外には、本項に記載する以上の知識を持ち合わせた者はきわめて少ない。
グリーンスキンは、巨大なオークとして描かれるモルクとゴルクの兄弟を崇めている。
この二柱は支配権をめぐって、互い同士でも、他のいかなる神々とでも戦っており、注意を引いた定命のオークたちとすら戦おうとするだろう。
これらの神々への信仰は、前述の糞便で作った偶像だけでなく、暴力と、囚人や臆病者、すぐ身を引かなかったライバルなどを生贄に捧げることが含まれる。
オウガには大アゴ様と呼ばれる神がおり、どんなものでも喰らうことでその力を奪い取るのだと信じられている。
宗教儀式に大食い競争も含まれるが、それ以外のオウガの生活のほとんども大食い競争なので、彼らを敬虔だと見なすのは難しい。
混沌の戦士と混沌の妖術師と同じくビーストマンとミュータントは、通常禍つ神々をきわめて熱狂的に信仰するが、一般的ではない名前の下でそれを行なう可能性がある。
一般的な神の名で混沌の神を信仰するミュータントの一団を、耳にしないわけではない。
神の名は、往々にして信者にそのような冒浣を犯す気にさせるものになりがちである。
スケイブンが存在することすらほんの少人数の学者しか認めておらず、そしてその者たちも、スケイブンがたんに禍つ神々、とりわけ“腐敗の王”を信仰していると信じる者がほとんどである。
しかし、スケイブンには“角ありし鼠”と呼ばれる独自の神がいることをつかんでいる者も、ごく少数ながらいる。
この神は、スケイブンたちに世界を単純に破滅させるのではなく、支配させようとしているらしい。
この神の存在を知る学者たちは、鼠人間と戦い続ける中で、もっとも信頼する友人や同志に限ってそのことを伝える。
最後に、これらの神々を信仰するようになった人間は、普通のモンスターの信者と同じ程の嫌悪と暴力を受ける。
モンスターの神々は、一般的に単なる禍つ神々の一側面であると信じられており、そのような神を崇拝する人間は、故意であろうが、そうではなかろうが、その堕落に汚染される運命にある。
モンスターの神々
種族 | 神 | 支配領域 |
ケイオス・ドワーフ | ハシュット | ケイオス・ドワーフ全般、妖術、暗黒の技工、混沌 |
グリーンスキン | モルクとゴルク | グリーンスキン全般、暴力、糞 |
オウガ | 大アゴ様 | オウガ全般、空腹感、力 |
スケイブン | 角ありしネズミ | スケイブン全般、冒涜、破壊、絶望 |
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