オールド・ワールドの神々
ウォーハンマーRPG4版の冒険の主な舞台である「エンパイア」で宗教といえば「シグマー教」である。
しかし、このシグマー教は比較的新しい神で、エンパイアの初代皇帝が神格化したもので、この地がまだ未開の森であった頃から信奉されていた神々は、今でも根強く信仰されている。
そればかりか、街道や航路が整備されて異国の人々との交流が生まれると異国の宗教も広がり、また、ドワーフをはじめとする人間と交友のある他種族の神々を祀る神殿や祠が建立された。
信仰する神はひとつでは無くてはならいという決まりはどこにもないため、地域や職業、性別などに根ざした神への信仰も入交り、エンパイアにおける神への信仰は複雑化している。
その複雑化の中で、倫理観や公序良俗に反する混沌の神々が秘密裏に信仰されていることもあり、エンパイアの秩序を代表する「シグマー教」はこれら混沌神に対する信仰を厳しく取り締まっている。
※混沌の神々やその教団についてはルール解説【混沌編】にて解説する。
エンパイアにおける主要な教団
各教団は、エンパイア各地にある、各々の神殿や祠、聖地と呼ばれる場所を管理しており、派手にお金をかける教団もあれば、質素に細々と管理運営している教団など多彩である。
教団は神々の代弁者として、聖職者や聖堂騎士をはじめ多数の信者を背景に地方政治に影響を及ぼし、その影響力は無視できないものとなっている。
各教団は、漠然とした神の教義のどの要素に重きを置くかによって、いくつかの修道会があり、僧侶や修道女たちの「修道会」、騎士の「聖堂騎士団」、司祭たちの「修道会」、托鉢僧の「托鉢修道会」などがあり、主に信者や地方の有力者たちの寄付によって維持されているものの、各修道会の忠誠は教団に対するものである。
各修道会は独自の戒律や伝統に従って個性を強めているため、表向き同じ教団内の修道会であっても内々で反目し合っているような場合もある。
エンパイアの主要な神々は10柱と呼ばれ、それぞれの教団の最高責任者が5年に一度の「最高宗教会議」で皇帝の下で意見交換や議論を行う。
エンパイアの神々は下記の10柱からなる。
・ヴェレナ…学識、正義、知恵
・ウルリック…戦い、冬、狼、ミドンランド
・シグマー…エンパイア、ライクランド
・シャリア…慈悲と治癒
・タール…自然、春、タラベックランド
・マナン…海、外洋、荒ヶ原(ウェイストランド)
・ミュルミディア…軍略、ティリア、エスタリア
・モール…死、夢、オストマルク
・ラナルド…ペテン、盗賊、幸運、貧民
・リア…多産、生命、夏
各教団の詳細は、ルルブP.205以降に教団の信者、聖地、戒律などが記載されているのでそちらを参照する。
各教団の主な修道会
各教団には個性豊な修道会が存在するが、残念ながらルールブックに修道会の紹介は無い。
今後、宗教に関するサプリメントが発売されることに期待しつつ、2版の「救済の書」から抜粋した修道会の紹介を載せておく。
ヴェレナ
【天秤派】
審判者や調停者としてのヴェレナの側面に注目した者たちである。
公正さは知識よりも重要だと考え、仲裁人として行動する。
天秤と剣騎士団の支援を受ける場合もある。
【伝承保護派】
知識の守護者としてのヴェレナの側面に注目した者たちである。
知識は公正さよりも重要であると考え、書庫管理者や学者として行動する。
伝承保護派は神秘修道会と密接な協力関係にあり、稀に巻物騎士団とも手を結ぶ。
【神秘修道会】
この組織は、失われたか忘れ去られた知識を取り戻し、弾圧された知識に日の目を見せることを目的としている。
書庫で知識を漁る者もいれば、遥か異国の遺跡に冒険の旅に出る者もいて、光の魔術師と手を組むことや、冒険者と旅を供にすることも多い。
【永光騎士団】
永光騎士団は主に貴族階級からなり、名家の跡継ぎが騎士として箔をつけるために入団し、(貴族目線の)正義の追求を使命とする。
そんな、永光騎士団は何の支援も得られないどんなに苦難な状況でも人々を救援する。
しかし、永光騎士団は「悪運」によって有名で、その悪運は正義のために出陣する際によく現れる。
馬は竿立ちになり、武器は折れ、甲冑は錆びつき、出陣が中止されてしまうのである。
【天秤と剣騎士団】
ヴェレナ教団で最大の戦闘集団であるこの騎士団は女神に代わって公正をなす者を自認している。
ヴェレナ教の神殿や高位聖職者の警護が主な役目であるが、裁判を控えた罪人の身辺保護や法廷の安全を維持するためにも活躍する。
場合によっては、警護ばかりではなく、ヴェレナ司祭の裁きを実行に移したり、正義の剣で悪政の手先と戦ったり、戦時には戦地に赴いたりと活躍の幅は広い。
【巻物騎士団】
伝承保護派と密接に関連したこの、巻物騎士団は書庫や大学、ヴェレナ神殿の警護が主な仕事だが、神殿で議論の的となっている書物や発禁になった魔導書の存在が知れた際にはその場に現れ、そんな貴重な書物が狂信者や魔狩人の手に渡ることを阻止すべく動く。
また、紛争地域での行方不明になった書物の探索など危険を伴う場合も多い。
巻物騎士団は、甲冑に隙間なく巻物を貼り付けたり、武器や甲冑に引用句がが書き連ねられているので、一目でそれとわかる。
ウルリック
【咆哮狼修道会】
ウルリック教のトップである「アル・ウルリック」この咆哮狼修道会の僧正たちによって選ばれる。
ウルリック教は派閥主義がない。権力闘争などはウルリック教徒において、軽蔑に値する行為だからだ。
ウルリック教徒はほとんど全員が咆哮狼修道会の一員であるといっても過言ではない。
【白狼騎士団】
アル・ウルリックの直下に白狼騎士団のグランドマスターがいる。
グランドマスターを任命できるのは、アル・ウルリックただ一人である。
白狼騎士団の中でも選び抜かれた数名のエリートたちは、チュートゲン親衛隊というアル・ウルリックの身辺警護にあたる一隊としてミドンヘイムへ招聘される。
これは、白狼騎士にとって最大の栄誉とされている。
【冬玉座修道会】
人里はなれた修道院で禁欲主義を実践する人々の集まりで、冬玉座修道会の指導者はウルリックの息子という意味で「ウルリックソン」と呼ばれる。
創設者ラグナル・フランツソンはノーシャの地でウルリックの喉と名づけた洞窟群を発見し、現在もこの洞窟群に現在の指導者であるウルリックソン・ハールガルトはいるという。
シグマー
【松明修道会】
シグマー教最大の組織であり、各地の神殿の管理運営、行事の取り仕切り、聖歌隊の結成、民兵の組織、戦槌担ぎのスカウトなど市民に向けたシグマー教の主だった活動の多くは松明修道会の司祭が行っている。松明修道会は市民の心が混沌など不浄の者共に蝕まれることを阻止しているのだ。
【銀槌修道会】
銀槌修道会は、エンパイアの領土を旅しながら、外敵の脅威を粉砕し、国境の守りを固め、当局者に助言をしたり、心の固まっていない入信者に話しかけたり、戦槌担ぎたちに稽古をつけたり、集会で説教をするなど、その活動によって民衆から敬愛されている。
【金床修道会】
金床修道会は、修道生活を旨とする組織で、教団内でも揉め事などをシグマーの聖句にならい収束させる。中には派遣判事としてエンパイア中を旅して失われたシグマーの書物を探し求めたり、上位者からの命をかなえるべく動くときがある。
【浄化の炎修道会】
浄化の炎修道会は混沌の種を探し出し摘み取ることが主な仕事で、彼らがいなければエンパイアはもう何世紀も前に混沌に飲み込まれていたといわれる。浄化の炎修道会の審問官が胸につける炎を形象化した大メダルはエンパイア国内において、シグマー教の神殿、修道院、集会堂などあらゆる場所への通行証となり、現地の教団員たちは審問官の要求をかなえることが期待される。
【信仰と純潔の姉妹会】
創設者である”清純尼”エステルが孤絶の美徳を説いて創設された。小さな修道会であるこの信仰と清純の姉妹会は名前のとおり、構成員は全て女性である。日頃は人目を避けてながら慈善活動に精進しているが、”動かぬ太陽”のたびごとに帝都の夏に蒸された暑い街路を、黒地に刺繍が施されたマントとプレートアーマーを身に付けた汗まみれの仮装行列が練り歩く。シスターたちの行列には見物人が殺到するため、修練者たちは見物人から寄付金を集めてまわる。2515年に代表のシスターが炎天下のパレード中に倒れ、モールの元に召されたことをきっかけに、大司教ヴォルクマールの命でシスターたちに戦の支度が命じられ、エンパイア全域の危険な前線へと消えていった。いまや生き残ったシスターたちだけが修練者に自分たちの経験を教え、”動かぬ太陽”のパレードをひっそりと行っているだけだ。
シャリア
【血涙修道会】
シャリア教徒は皆、血涙修道会に所属し、それ以外の分派や下部組織は存在しない…ことになっている。
シャリアの組織体制はクーロンヌの神殿を本殿とし、封建的な運営がなされている。
地方の小さな神殿が中規模な神殿に上納し、中規模な神殿はその中から大規模な神殿へと上納し、各主要都市にある大規模神殿から上納品が本殿へと集められるという仕組みだ。
その上納の過程の中で、一般の市民から寄付された物品は、換金されたりして奉仕活動の資金へと変わるが、シャリアを讃えた絵画などの美術品は神聖な物とされ、より大きな神殿へと上納される。
小規模な神殿は、救いを求める者に手を差し伸べる活動に没頭する他ないが、神殿の規模が大きくなると「直に看護をする者」と「必要な人々に看護が施されるように組織する者たち」の二大グループに分かれる。
看護団の管理運営にあたるグループは戦場や被災地で力を発揮し、人々から敬われているものの、皆、遠巻きに管理運営グループを応援する。人手の足りない状況下での活動は通りすがりの人でさえもテキパキと指示を与え、看護助手としてシャリアの奉仕活動の中へと飲み込んでいくためである。
直に看護する者たちは、当然、管理運営グループが要請すれば駆けつけるし、そのグループ間に対立や上下関係は存在しない。
一般的にシャリアのシスターといえば、こちらの看護者の方が市民に馴染みがあり、町や村では無条件の好感をもって迎え入れられる。村にシャリアのシスターが来たと噂があれば、若い男は一目見ようと殺到する。事実、患者とシスターの恋物語は多く語られ、”白鳩のきまぐれ”と名づけられるほどありふれた出来事である。
患者と一線を越えない関係こそが患者とシスターの正しい距離感だと教わるが、老齢なシスターたちでさえ、”白鳩のきまぐれ”に関しては好意的に、助言や手助けをしてくれるし、中年シスターたちは母親のように接する。そういった背景もあり若いシスターたちも白鳩がいつ自分に気まぐれを向けてくれるか期待に胸を躍らせている。
若くかわいいシャリアのシスターたちは、しばしば卑猥な冗談や下品な呼び売り本のネタにされるが、シスターは常に好意的に描かれることから、教団はおおむねそれに目をつぶっている。
下心を秘めて治療に訪れる若い男性には、その神殿で最高齢のシスターがつくことが通例である。
【禁欲主義者団】
一人の者がどこまで身を粉にして女神に貢献できるかを突き詰める者たちである。
組織というよりは問題提起を促し、シャリアへの献身の物差したる考え方を議論する集団といったほうが適切かもしれない。
困窮者たちと多くの時間を過ごし、大局よりも目の前の困窮者に対してシャリアの教えを実践しつづけていると、考えが極端になり、過激な思想に偏ることも仕方ないといえば仕方ない。
たとえば、貴族から上質なワインを注がれたときそれを頂くのはいけないことなのか? 座り心地の良い椅子をすすめられたが、それに腰を下ろしてもよいのか? などである。
答えは、これらの行為は許される。なぜなら提供された贅沢は困窮者を救うために転用できないからである。
しかし、過激な少数派にはシャリアの救済は義務であるべきなので、人々を助けることで自らの満足感を得てはいけないという考えがあったり、これほど悲惨な世の中に幸福などあってはならないと考える思想の者もいる。
こういった、少数ではあるが偏りがちな思想を軸として活動しているシスターたちがある程度のグループをつくることは自然なこで、小さな偏ったグループは無数に存在する。
【救済の対象】
救いを求めて神殿を訪れる無数の困窮者に対して、どの人を真っ先に救うか切迫度に応じて短い時間で優先順位をつけることが認められているが、救う順番を選別すべきでないという考え方のグループがいる。
救済すべき者を選別すべきではなく、等しく救済の手を差し伸べるべきだという考えもある。その選別はシャリアが運命という名のもとに自分たちとその困窮者をめぐり合わせているため、選別は必要ないという考えである。
ごく少数の過激思想者の中には社会の構造そのものを変革すべきだと異端と紙一重の思想の者も存在する。
タール
【タール親族会】
ほぼ男性ばかりで構成された最大派閥で、身近で分りやすい形の男らしさを体言する者たちである。大自然の脅威と対等に渡り合う男は強く雄大で、仲間意識が強く”男同士の秘密”と自然界の神秘を守る責任を有する。
タール親族会の男たちはサウナ小屋の中で幻覚性の薬草やキノコとアルコールで強烈な精神高揚に包まれて長い時を過ごす。
また、男達で集まり、狩猟隊を結成して、何日も何週間も太鼓を叩きながら、密造酒とともに獲物を料理して過ごすことも多い。
【番人団】
タールとリアの聖地を守るという意志の元に、ビーストマンやグリーンスキン、無知な人間と戦う者達である。
無知な者達からすれば、ただ巨石がそこにあるだけの場所でもタールやリアの信者においてそこは神聖な聖地である場合がある。そんな聖地で密漁を行う者を彼らは絶対に許しはしない。また、番人団は秘密の儀式を執り行う者でもあり、信者でない者が運悪くこの秘密の儀式を目撃した者は容赦なく目を潰される。そのような事柄が噂を呼び恐れられている。
人類の工業技術は自然界なら一笑に付するのだと考える。所詮人間の生み出した物は錆び、腐敗し、やがて塵と化すが、自然界は永遠に変わることがないからだ。
【長脛会】
長脛会は他教団における騎士団の役割を果たす野人集団である。
彼らは一箇所に一週間以上滞在することはなく、タールやリアを祀る神殿や祠、聖地などが手入れされきちんと機能するかをチェックするためにエンパイア中をまわる。そういった聖地を冒涜する輩を見つけた場合はただちに天罰として死をもたらす。
混沌の嵐の際に長脛会は騎馬偵察隊や斥候、奇襲部隊として皇帝の軍で活躍を果たした。
【有角狩人会】
有角狩人会はタールとリア教団においては狂信的な分派に分類される。
タールとリアの教義をより深く追求する彼らは、ごく小さな村落以上の共同体で暮すことを避け、文明の所産を遠ざけている。そのため、衣服すら身に付けていない者が大半だ。
有角狩人たちは戦闘では荒々しい戦士と化し、神聖な原野を冒涜する者を容赦なく排除する。単にタールの聖なる森に迷い込んだ旅行者でさえその対象なのだ。
教団内では有角狩人たちは神々から特別な接触を受けた者たちであると信じられ恐れ、崇められている。
マナン
【信天翁修道会】
女総主教直轄の団体で、航海士や水先案内人を兼任する司祭からなる。
積荷の重さ、価値、目的地や航海の長さに応じた十分の一の税の見返りに航海の安全を担保する司祭を派遣する。派遣される司祭は単なる航海士に留まらず信仰呪文をあやつる司祭であるため、マナンの意志に直接訴えができるのだ。
以前は船が無事目的地に着いたら十分の一税を支払えばよかったが、女総主教の辣腕により、現在では前払いになっている。
【海兵騎士団】
マリエンブルグに拠点を置く聖堂海兵団であり、大聖堂をはじめとした港湾都市と行き交う船舶の防護にあたっている。
彼らは騎士団長を代表として、女総主教の指揮下にある。
海兵騎士団はかなりの数の軍船を有しており、高度な訓練も実施しているため、近隣海域の海賊たちから恐れられている。こうした有能な海兵騎士たちは他の商船などの船団に金で雇われることもあ、船に乗り込むか、船を出して護衛するかは規模と金額による。
【マナンの子孫会】
マナンの子孫会はオストランドのザルカルテンを本拠とし、碧青色と白の鎧を身に付け、カトラス、スピア、バックラーなど海で生きている者に相応しいで武装をしている。
マナンの子孫会は船舶を海賊などの襲撃者から守るとともに、ストロムフェルズの信奉者や難破船荒らしを狩る。
【ストームガード】
ノードランド北岸に人目を忍んで本拠を置いている。
ストームガードはストロムフェルズの信奉者を探り出し、教団を根こそぎ潰すことに専心した者達である。
フードのついた群青色と灰色のマントに白と銀色の糸で波を表した刺繍を施している。
かれらはトライデントとスピアの使い手であり、任務の際にはマナンの子孫会に協力を求める。
ミュルミディア
【荒鷲騎士団】
巨大な軍隊のような組織をなし、下位者は上位者の命令の下に動く仕組みだが、上位者たちは下位者からさまざまな意見を吸い上げるために助言を要求する。
環境の変化に柔軟に対応するため、頻繁に組織の変更が行われる。
【有徳の槍騎士団】
有徳の槍騎士団はオールドワールドで最大規模の聖堂騎士団である。
ほとんどの集会堂はティリアとエスタリアに集中しているが、エンパイアやアラビィでさえも集会堂は存在する。
多数の下部組織が寄り集まって形成されている有徳の槍騎士団の内部構造は複雑で、東西で対立しているミュルミディア教の面倒なしがらみにエンパイアの有徳の槍騎士団はどちらの指揮下に納まるかで、ふらついている。
【太陽騎士団】
その名声に反して、組織はごく小さい。
十字軍の遠征の際にエンパイアの騎士60名はアラビィの追っ手にとり囲まれ絶体絶命の窮地に陥ったときに奇跡的な地震で、ミュルミディアの巨大な石造が倒れ、助かったことで60名の騎士はエンパイアに戻るとタラベックランド西部に異国の神を祭る神殿を建てた。
その後、十字軍遠征に加わった金豹騎士団や金獅子騎士団の協力でエスタリアやその先に至る通商と巡礼の道を開いたのだ。
【真なる洞察の修道会】
ミュルミディアが定命者だったころ、たびたびモールの預言者に相談をしたということから、現在でもミュルミディアの信者たちはその習慣をつづけていて、ティリアやエスタリアの軍隊にはモールの卜占修道会士が付き添うことがある。
ミュルミディア教団内にも独自の托宣者集団が存在し、そのひとつが「真なる洞察の修道会」である。会員は紹介でしか入会できず、大半は晩年の女性である。
多くの荒鷲修道会の騎士はまず、真なる洞察の修道会に相談してからでなければ、いかなる大戦役への従軍を拒むほどの影響力をもっている。
【“激怒”の騎士団】
『戦争の女神ミュルミディア』に登場する盾乙女”激怒”という名の乙女は、復讐心に駆られていたが、彼女の復讐心を理解したミュルミディアは彼女を制止するのではなく、戦場で使った。
その結果、彼女は敵を殺しまくり、敵が一人残らずいなくなるとすすり泣き、崩れるのだった。そんな彼女の最後の地は教団の管理下で聖地として残されている。
そのような逸話に魅せられた者たちが発足した”激怒”の騎士団は、エスタリアとティリアでは女性ばかりの組織だが、エンパイアでは男性ばかりの組織となっている。
モール
【死衣修道会】
モール教の組織で最も大きく一般的な組織である。
死の神としてのモールに仕え、各地の神殿とモールの庭の管理運営を行い、人々の葬儀を執り行うため、大半の死衣修道会の会員はひとつの神殿に腰を据え、旅に出ることもなく過ごすが、中にはオールドワールド中の埋葬や葬儀を待つ迷える魂を救うためのさすらいの旅に出て生涯を過ごす者もいる。
ルッシーニで行われる十年に一度のコンクラーベ(宗教会議)には、モールの預言を受けた代表者を送るのだが、司祭長の夢に現れる預言には、とりわけ癪にさわる手下が選ばれやすい。
【卜占修道会】
夢と預言の神としてのモールに仕える卜占修道会士の大半は、教団の公式な下部組織である厄災預言者会の会員である。
彼らはさすらいの旅の中で、司祭に看取ってもらえない死者たちに最後の儀式を施すため、危険な地域にあえて踏み込み、屍体を見つけてまわる。
また、金銀財宝の眠る墳墓に踏み込むこともあり、そうした施設の中のトラップなどで命を落とした遺跡荒らしたちの葬送の儀式をとり行うためで、墳墓の財宝には全く手をつけずに帰ってくる。
このように危険が伴うことの多い卜占修道会士たちだが、黒の護り手からの助力を受けることは難しいため、冒険者たちと行動を伴にすることも多い。
【厄災預言者会】
厄災預言者会は卜占修道会に従属する下部組織で、僻遠の地を訪れてはモールの神殿を利用できない人々のために、「運命づけ」や葬送の儀式を行うことを使命としている。
子供が十歳を迎える誕生日の前日や誰かが死んだ直後の共同体に折りよく現れ、「運命づけ」や葬送の儀式を行い去ってゆく。
もう一方で、戦争や疫病、天災などで間もなく人々が大量に死ぬ場所に導かれる者たちがいる。一人でふらりと現れることもあるが、示し合わせてもいないのに複数の司祭たちが導かれることもある。
彼らは「見過ごせない夢を見た」と主張し、夢の解釈を議論する。
これから起こる大量の死を防ぐことは不敬だと考え、葬送の儀式を行うために導かれたのだとする集団もあれば、大勢の人々が本来の順番より早く王国の門をくぐる恐れがあるため、その厄災を阻止するか遅らせるために導かれたと結論付ける集団もある。
モールの司祭が死のにおいを嗅ぎ分け、絶妙なタイミングで現れる理由を巡って人々はさまざまな憶測をめぐらせ、噂をする。中には直接さすらいの司祭に聞いた者もいるが、司祭たちは口をそろえて「夢見に従っているだだ」と答えるので、その真意は謎のままである。
【黒の護り手】
黒の護り手はモールの聖堂騎士団である。モールの庭の守護と司祭たちの監視が主な任務である。
黒の護り手に入会する者たちの動機は、愛する者が死の苦しみから解放される瞬間に居合わせたとか、アンデッドとの遭遇を機にというものがほとんどである。
軍事に偏った組織は、蠢く死者や死霊術師に立ち向かうためでもある。
一方で、重要な葬儀(葬儀の金額による)には黒の護り手から選抜された儀杖隊が出席し、儀式の間は一切の物音をさせず、全身を甲冑でつつんでいるにも関わらず、音もなく行進することで有名である。
ラナルド
【同胞会】
商人や仲介人など金銭を取り扱い生計を立てている人々からなる最大組織で、商人ギルドに酷似している。
寄り合いを開いて、互いの利害を調整し、全員にとって利益になるように謀をめぐらせるのだ。
【施与者会】
自由を愛し、利他精神に富み、世の不正義を正すという強い信念のもとに活動している。
結局は金持ちから金を奪って、恵まれない者たちに施すのだが、虐げられた者たちの窮状を一身に背負い、より大胆な行動に駆り立てられることで、長生きできない者が多い。
一部の狂信的な者たちは、エンパイアの社会制度そのものが悪いため、制度そのものを転覆させてしまおうという野心家もいる。
【鉤指衆】
ラナルドを盗賊と詭弁の神と位置づけ、本物の盗賊や巾着切り、詐欺師などで構成され、欲しいものを欲しいときに我が物にするという信条で結託し、「仲間は決して裏切らない」「自分の身は自分で守る」という確約のもとで、数人のグループで仕事をする。そして仕事で得たものは全員で分けるのだ。
リア
【恵みの運び手】
他の分派とは違い、恵みの運び手はエンパイアの市民たちから認められ、敬愛されている。
彼らは共同体で人々と供に暮らし、タールとリアの祝福を民衆に授ける。豊穣の儀式や家畜にまつわる儀式を執り行い、成長や豊かさを神に祈る。女性の司祭は性愛やそのテクニックについての助言者であり、出産についても人々の手助けをすることから村の女性たちから尊敬されている。
【リア婦人会】
リア婦人会は出産経験のある女性のみで構成された下部組織である。
この組織の会員は産婆や癒し手として、母親やこれから母親になる女性たちにとっての相談役として活動している。また、男性の目の届かぬところで、妊娠を避ける方法や、暴力的だとか身勝手な亭主への対処法などを女たちに教えている。そういった活動から男性ばかりの環境にある分派の男性たちは、リア婦人会について様々な憶測で噂する。ひどい場合には混沌の教団との関与までも噂されてしまう始末だ。
歴史に関与するように極めて重要な子の誕生には、リア婦人会の女性の耳元でリアが囁くのだという。
祈祷
多くの信者は神殿や自宅で神に祈りを捧げる敬虔な神の子羊たちであるが、中には「奇跡」という形で神の介入を呼びかけることができる者がいる。
このように神の介入を具現化できる者を人々は「福者」と呼び、特別扱いをする。
福者
神の介入を具現化できる福者には2通りあり、《祝福》または《奇跡》の異能を持つ者に分かれる。
ちょっとした神の意志を具現化できるのが「祝福」で、修行を重ね、神の寵愛を得られれば、より強力な「奇跡」を神に求めることができる。
これら「祝福」「奇跡」はまとめて「祈祷」と呼ばれる。
祝福と奇跡
各教団ごとの祝福と奇跡はルルブP.220~228を参照する。
祝福と奇跡の発動(P.217)
祈祷は福者が声に出して神に祈らなければならず、「手強い」±0〈祈念〉テストの結果により、その意志が受け入れられたかが決まる。
テストに成功すれば、「祝福」「奇跡」は発動される。
失敗なら神は単に願いを聞き入れなかっただけだが、ファンブルの場合には神の不興を買い、「神々の天罰表」(ルルブP.218~219)に則した天罰が与えられる。
また、成功したテストのSLが+2あるごとに「祝福」と「奇跡」にはボーナスがつけられる。
「祝福」SL+2以上の場合
SLが+2あるごとに下記より1つの恩恵を得る。
・射程+6ヤード
・目標+1名
・持続時間+6ラウンド
ただし、持続時間が瞬間の場合には持続時間は延ばせないし、接触の射程を延ばすことはできない。
「奇跡」SL+2以上の場合
SLが+2あるごとに下記より1つの恩恵を得る。
・射程を「奇跡」の初期値分追加できる。
・目標を「奇跡」の初期値分追加できる。
・持続時間を「奇跡」の初期値分追加できる。
ただし、射程と目標が「術者」の場合は、それぞれの恩恵は無意味となる。
祝福と奇跡の制限
・祝福と奇跡を発動するために必要な祈祷、儀式、詠唱、歌は声を出して吟唱できなければならない。
・祝福と奇跡は同じ祈祷を再度行う場合などは、前に起こした祝福や奇跡の効果時間が終わるまで待たなければならない。
・祝福や奇跡は2重にかかることは無く、複数名で同一の祈祷を発動させた場合でもボーナスは累積しない。
原罪点
福者は神の意志を具現化できる分、一般人よりもその行いが神にも届きやすいといえる。
つまり、教団の戒律を破るようなことをするとその分、神の不興を買ってしまいやすいのだ。
全てはGMの判断に委ねられるが、戒律に反することや、その信仰する神の不興を買うような行いをPCが行ったなら「原罪点」を1点、行いの深刻さによってはそれ以上の点数を与える。
また、獲得できる原罪点に上限はなく、その点数が多いほど神に助けを求めた場合に不興を買いやすくなる。
罪と天罰
神の不興を多く買っている福者が祈祷をして神の奇跡を引き出すのは危険を伴う。
〈祈念〉テスト時のロールの一の位の出目が、そのPCの「原罪点」未満である場合、神の天罰を受けるハメになる。
たとえ〈祈念〉テストが成功していたとしても神はお怒りであるため、天罰が優先されるはずであろう。
神々の天罰
下記の状況があれば、PCは神の天罰を受けることとなる。
・祈祷の際にファンブルした
・祈祷の際のロールの一の位が原罪点未満だった
・神を侮辱するような行為を行った
GMは「神々の天罰表」(ルルブP.218~219)を用いて、ダイスロールまたは、GMが任意の天罰を選んで、PCに天罰を下す。
ロールで決定する際には、「原罪点」1点につき10%をプラスして決定する。
そのため、天罰表には出目が151以上の項目まである。
天罰を受け、表の結果を解決した後、「原罪点」を1点減じることができる。
贖罪
神々の天罰の結果では「贖罪」を求められる場合もある。
各教団の説明(ルルブP.205~214)にある「贖罪」をベースにGMと相談することになるだろう。
神の顕現
「祝福」は効果も小さく、《聖なる幻視》異能がなければ、はっきりと福者かどうかを見極めることは難しい。
《祝福》異能を持たない司祭が神殿で大勢の信者を集めて、祝福の歌を吟じていることもあれば、駆け出しの入信者が托鉢中に施しをしてくれた信者に対するお礼の祝福が本物の効果のある祝福である場合もある。
一方で「奇跡」は明確に神が顕現する。
ウルリック教徒の「奇跡」は凍てつく風や狼にまつわる何かが起きたり、マナンの「奇跡」は術者が海水でびしょ濡れになったりするだろう。
主要10柱以外の神々
その他にも、ごく狭い地域で信仰されている神や特定の職業や性別、種族などが信仰しているような神もある。
この先、4版で宗教に関するサプリメントが発売されることを期待しているが、それまでの間は2版サプリ「救済の書」から抜粋した様々な神々に対する信仰を知識として持っておくだけでも、GMのプレイの幅は広がるだろう。
異国の神々
国ごとに信仰される神々は学者からすれば同一の神の呼び名が変わっただけという見方をする者もいる。
例えば、ブレトニアで信仰されている湖の淑女(Lady of the Lake)は、ミュルミィディアの名前が地域や国によって呼び名が変わっただけだとも言われている。
熊神ウルスンはタールと同一視されるし、嵐の神トールはウルリックと同一視される。
国名 |
神格 |
支配領域 |
ブレトニア |
湖の淑女(Lady of the Lake) |
ブレトニア全域の騎士と貴族 |
エスタリア |
商人 |
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キスレヴ |
ダァジ(Dazh) |
炎、太陽、招待客 |
トール(Tor) |
嵐、戦い |
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熊 |
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ノーシャ |
メルメデウス(Mermedus) |
鉤爪湾 |
ウルサシュ(Ursash) |
熊狩り |
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ティリア |
ルカン(Lucan) |
ルッシーニ(ルッシーナの双子) |
ルッシーナ(Luccina) |
ルッシーニ(ルカンの双子) |
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商人 |
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ボーダープリンス |
家畜泥棒(とりわけ牛泥棒) |
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マリエンブルグ |
交易商、商人、中産階級 |
禁教
エンパイアでは下記の神々の信仰は禁じられている。
意外なことにこれら禁教を信仰する信者にとって混沌の神々を信仰し堕落することは、似て非なるもので、彼らは彼らなりの信念を持って禁教を支持、信仰している。
ただし、シグマー教の影響下にある一般人や魔狩人たちからすれば、禁教信者も混沌教信者も堕落した社会悪でしかないのだ。
そのため、禁教の信者たちは決してその信仰を公にすることはないし、表向きは敬虔なシグマー信者を演じている者もいるかもしれない。
禁教の神 |
支配領域 |
信仰者 |
殺人 |
殺人者、暗殺者、ダークエルフ |
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専制政治と圧政 |
為政者、批評家、兵士 |
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大海の捕食者、海洋の危険、大嵐 |
難破船荒らし、海賊、海の略奪者 |
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退廃、飲酒、放蕩 |
貴族、飲んだくれ、売春婦 |
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狩り、繫殖、タールとリアへの復讐 |
ソル川沿岸からウィッセンランド、ズィルヴァニアまでの一部の一般民衆 |
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スケイブンによる国家転覆、新秩序 |
西ミドンランド、北ライクランド |
ドワーフの神々
ルールブックP.215~216にも記載がある。
補足的に2版の抜粋を載せておく。
名前 |
支配領域 |
信仰地域 |
信仰者 |
職人、鉱夫 |
ドワーフの城塞都市、ナルン |
職人、鉱夫、鍛冶屋 |
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ドワーフの要塞都市 |
要塞都市 |
ドワーフ全般 |
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戦士、スレイヤー |
要塞都市 |
戦士、スレイヤー |
エルフの神々
ルールブックP.215~216にも記載がある。
補足的に2版の抜粋を載せておく。
名前 |
支配領域 |
信仰地域 |
信仰者 |
エルフの臣民、不死鳥王 |
ウルサーン |
エルフ全般 |
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知識、学問、知恵 |
ウルサーン(特にサーフェリィ) |
学者、魔導師 |
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自然、多産、子供、エルフの種 |
ウルサーン(特にアヴェロン)、ロゥレンの森、ローレローンの森 |
ウッドエルフ、母親、農夫、偵察兵 |
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殺人と戦争 |
ウルサーン、ナーガロス |
ダークエルフ、殺人者 |
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狩り |
ロゥレンの森、ローレローンの森 |
ウッドエルフ、狩人、偵察兵 |
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夢、幸運、啓示 |
ウルサーン |
占い師、予言師 |
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楽しみ、音楽、悪戯 |
ロゥレンの森 |
ウッドエルフ |
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海、嵐、探検、船乗り |
ウルサーン、マリエンブルグ |
船乗り、探検家、商人 |
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宿命、死 |
ウルサーン |
予言師 |
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鍛冶、工芸職人 |
ウルサーン |
鍛冶屋、工芸職人 |
ハーフリングの神々
ルールブックP.215~216にも記載がある。
補足的に2版の抜粋を載せておく。
名前 |
支配領域 |
信仰地域 |
信仰者 |
暖炉と家庭 |
ムート |
母親、パン職人 |
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ゲフェイ |
建築、村 |
ムート |
大工、村の長老 |
ヒャシンス |
多産、子供 |
ムート |
母親、産婆 |
ヨシアス |
養殖、農業 |
ムート |
農家 |
フィニアス |
タバコ |
ムート |
喫煙者 |
クウィンズベリー |
先祖、伝統 |
ムート |
村の長老 |
モンスターの神々
オマケとしてモンスターたちの信仰する神々も掲載しておく。
種族 |
神 |
支配領域 |
ケイオス・ドワーフ |
ハシュット |
ケイオス・ドワーフ全般、妖術、暗黒の技工、混沌 |
グリーンスキン |
モルクとゴルク |
グリーンスキン全般、暴力、糞 |
オウガ |
大アゴ様 |
オウガ全般、空腹感、力 |
スケイブン |
角ありしネズミ |
スケイブン全般、冒涜、破壊、絶望 |
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